このレビューは、最終回のひとつ手前まで読んだ段階で書いています。
全部読み終えたあとにまとめた方がいい気もするのですが、熱が残っているうちに残しておきます。
既に素晴らしいレビューが数多くある作品なので、改めて何かを言うのは野暮かもしれません。けれど、端正な文章で紡がれる「選ばれてしまった」側の少年が辿る軌跡には、触れておきたいと思いました。
ここに書かれているのは決して気持ちがいいばかりの成功譚ではなく、ときに目を背けたくなるひどく醜いものや、どうしようもない現実です。それでも主人公の優くんは、痛いくらいのひたむきさで現実と向き合っていくことを選ぶ。その選択が、読み手側にもまっすぐ刺さってきます。
そして、高校生たちのみずみずしさが大きな魅力の本作ですが、個人的には周囲の大人たちの描き方がとても良いと感じました。酸いも甘いも噛み分けた空気をまといながら、どこかでまだ熱を捨てていない。人生相応の厚みを持った人物たちがただの舞台装置ではなく、物語の熱を支えているのがとても印象的でした。
結局のところ「生身で、何かをやれる人間」がいちばん強い。
格好よく物語ることでも、誰かに意味づけてもらうことでもなく、自分の身体と意志で踏み込んでいける奴が一番TUEEE。そんな“生きている人間の強度”を体感できるこの作品は、大人が読むことで刺さる場所が増えていくタイプの物語です。しばらく忘れていた「熱さ」を取り戻してみたい方、ぜひ読んでみてください。
青年は声変わりで少年時代の声を失いますが、優は反対に、青年になる未来を失いました。代わりに得られたものが、この高い少年のままの素晴らしい歌声だったのだと気づきます。
しかし失ったものは不遇な出来事で大きくなっていきます。
それでも、やっと取り戻したのが少年の枠に押し込められていた一人の人間だったのではと思います。
彼が歌う姿は、全身全霊そのもの。曲の物語に入り込み、聞く人の五感を揺さぶるのが切々と伝わってきます。歌う描写を読んでいるとその中に惹き込まれそうになります。
この感動を分かち合いたいのですが読み友もいないので、皆様に読んでくださいと言うしかありません。
読んでみて、感じてみてください。
『カストラート=少年期の声を保ったまま歌う男性歌手』という題材を、令和の今にスッと落とし込んだのがこの『令和のカストラート』。まずその発想がさすがだと思います!
思春期のひたむきさとか、痛いほどの繊細さがすごくリアルです。登場人物の感情がちゃんと“生きてる”から、読んでるこっちまで苦しくなるくらい入り込んじゃいます。
でも、その苦しさを抱えたまま少しずつ前に進んで成長していく姿が本当に良くて…気づいたら胸が熱くなってました。
あと、歌う場面の描写が圧巻です。音が聴こえてきそうなくらい情景が浮かんで、心がぐっと揺さぶられました。作者さんが「歌に関わる経験がある」ってコメントされていたのも納得の説得力…!
才能が消費されがちな時代に、「歌うこと」「才能を持つこと」にちゃんと向き合ってくれる作品だと思います。
もちろん⭐︎3つです♪
声を出すことにためらいを抱える少年・朝比奈優は、日常の中では人との距離を測り続けている。彼にとって声は、他者と繋がるためのものではなく、むしろ壁となって立ちはだかる存在だった。しかし、歌った瞬間、その声は意味を変える。押し殺すしかなかった声が、感情を運び、誰かの心に届いていく。
物語は、家庭や学校、そしてネットの世界という複数の場所を行き来しながら、優が自分の居場所を探していく過程を静かに描いている。父から受ける技術的な指導や、動画投稿を通じて寄せられる反応は、歌う喜びだけでなく、才能と向き合う重みも伝えてくる。一方、学校では善意ゆえの距離が描かれ、その優しさが孤独を深めてしまう様子が印象に残る。
中でも梨花との関係は、優の歌が持つ力を際立たせる重要な軸となっている。純粋な賛美では済まされない感情の揺れや、理解しようとする姿勢が交錯するやり取りは、才能が人と人の関係を変えてしまう瞬間を繊細に映し出す。声は祝福であり、同時に重荷でもある。その二面性を抱えたまま、それでも歌うことを選ぶ姿が、心に静かに残る。
日常の隣にあるようでいて、特別な世界。
そしてその世界はひとりの「人間」に詰め込まれたすべて。
彼の青春は、窮屈で息苦しい。
それもまた彼がひとりの「人間」であるからこその抑圧で
だからこそ避けられない。
幸福も、痛みも。息苦しさも、自由も。
ひとりの「人間」にはこれだけの「ドラマ」が詰め込まれているのだと
鮮烈な発見を得るのです。
読む手が止まりませんでした。
主人公の人生においては「一瞬」かもしれない「青春」の瞬間。
そこに立ちあえることを幸運に思えるほどのリアルがここにあります。
作者様の書かれる世界に出会えてよかった。
心からそう思える作品です。