本作は、いわゆる単なる成功譚ではなく、与えられてしまった“特異な才能”とどう向き合い、どのように自分の居場所を見出していくのかを丁寧に描いた作品です。
主人公が抱える“声”という要素は、周囲からは賞賛される一方で、本人にとってはコンプレックスともなり得る非常に繊細な題材ですが、本作はそれを等身大の視点で描き切っています。
そのため、特異な性質を持つ主人公ながら、読み手は自然と内面に寄り添いながら読み進めることができて、気がつけば彼の感情の揺れを自分のことのように感じられる構造になっています。
特に印象的なのは、思春期特有の“自分だけが周囲とズレているのではないか”という感覚や、他者の視線に対する過敏さが非常にリアルに表現されている点です。こうした心理描写は過不足なく、確かな説得力を持っています。
登場する音楽関係者の方たちのプロとしての視点や導きも見事なもので、業界を牽引する方々の言葉を受け、主人公も新たな世界を知るチャンスがたくさん訪れます。
また、本作が「成功」や「評価」といった外的な指標ではなく、「ここにいていいと思えるかどうか」という内面的な到達点を軸に据えている点も、大きな魅力だと感じました。読後に残る余韻は深く、長く心に残る作品です。
文章も非常に読みやすく、無駄のない表現でありながら、空気感や情景がしっかりと伝わってくるため、物語への没入感を損なうことがありません。音楽というテーマも相まって、歌声を届けるための描写を持った一作だと感じました。
総じて、テーマ性・心理描写・文章力のいずれにおいてもかなり完成度が高く、丁寧に作り込まれた良作です!
繊細な人間ドラマを好まれる方には、ぜひ一読をおすすめいたします!
このレビューは、最終回のひとつ手前まで読んだ段階で書いています。
全部読み終えたあとにまとめた方がいい気もするのですが、熱が残っているうちに残しておきます。
既に素晴らしいレビューが数多くある作品なので、改めて何かを言うのは野暮かもしれません。けれど、端正な文章で紡がれる「選ばれてしまった」側の少年が辿る軌跡には、触れておきたいと思いました。
ここに書かれているのは決して気持ちがいいばかりの成功譚ではなく、ときに目を背けたくなるひどく醜いものや、どうしようもない現実です。それでも主人公の優くんは、痛いくらいのひたむきさで現実と向き合っていくことを選ぶ。その選択が、読み手側にもまっすぐ刺さってきます。
そして、高校生たちのみずみずしさが大きな魅力の本作ですが、個人的には周囲の大人たちの描き方がとても良いと感じました。酸いも甘いも噛み分けた空気をまといながら、どこかでまだ熱を捨てていない。人生相応の厚みを持った人物たちがただの舞台装置ではなく、物語の熱を支えているのがとても印象的でした。
結局のところ「生身で、何かをやれる人間」がいちばん強い。
格好よく物語ることでも、誰かに意味づけてもらうことでもなく、自分の身体と意志で踏み込んでいける奴が一番TUEEE。そんな“生きている人間の強度”を体感できるこの作品は、大人が読むことで刺さる場所が増えていくタイプの物語です。しばらく忘れていた「熱さ」を取り戻してみたい方、ぜひ読んでみてください。
青年は声変わりで少年時代の声を失いますが、優は反対に、青年になる未来を失いました。代わりに得られたものが、この高い少年のままの素晴らしい歌声だったのだと気づきます。
しかし失ったものは不遇な出来事で大きくなっていきます。
それでも、やっと取り戻したのが少年の枠に押し込められていた一人の人間だったのではと思います。
彼が歌う姿は、全身全霊そのもの。曲の物語に入り込み、聞く人の五感を揺さぶるのが切々と伝わってきます。歌う描写を読んでいるとその中に惹き込まれそうになります。
この感動を分かち合いたいのですが読み友もいないので、皆様に読んでくださいと言うしかありません。
読んでみて、感じてみてください。
『カストラート=少年期の声を保ったまま歌う男性歌手』という題材を、令和の今にスッと落とし込んだのがこの『令和のカストラート』。まずその発想がさすがだと思います!
思春期のひたむきさとか、痛いほどの繊細さがすごくリアルです。登場人物の感情がちゃんと“生きてる”から、読んでるこっちまで苦しくなるくらい入り込んじゃいます。
でも、その苦しさを抱えたまま少しずつ前に進んで成長していく姿が本当に良くて…気づいたら胸が熱くなってました。
あと、歌う場面の描写が圧巻です。音が聴こえてきそうなくらい情景が浮かんで、心がぐっと揺さぶられました。作者さんが「歌に関わる経験がある」ってコメントされていたのも納得の説得力…!
才能が消費されがちな時代に、「歌うこと」「才能を持つこと」にちゃんと向き合ってくれる作品だと思います。
もちろん⭐︎3つです♪