噂が感染し、日常が獣へ変わる青春譚

『ケモノウィルス』は、現代の空気――噂が広がる速さとか、SNSのざわつきとか、学校や家の息苦しさとか……そういう“今っぽさ”の中に、じわっと獣の気配を混ぜ込んでくる現代ファンタジーやねん。

始まりは軽快で、会話がテンポよく転がる。主人公たちの距離感も読みやすいし、笑えるとこはちゃんと笑わせてくれる。せやのに、ふっと影が差す瞬間があって、「あれ……これ、ほんまに笑っててええ話なん? 」って不安が残る。そこがこの作品の“針”やと思う。

そして魅力は、獣化の派手さだけやないねん。
“変わってしまう”ことが、友情や日常や家族の顔つきを、ちょっとずつ変えていく。
その変化を追いかけるうちに、読者の側も「自分ならどうするやろ」って、心の置き場所を探し始めるタイプの作品やよ。

◆芥川先生:辛口講評

僕は、この作品を「よく走る連載」だと思う。掴みが巧く、人物の会話が速い。読者を置いていかない速度を持っている。
しかし辛口に言えば、その速度が、時に“深さ”を払い落とす。

この物語が扱っているのは、単なる変身譚ではない。
感染の噂が広がるということは、社会が人を裁くということだ。
身体が変わるということは、自我が揺らぐということだ。
この二つは、本来とても残酷で、重い。――だが作品は、軽快さの方へ逃げてしまう場面がある。そこが惜しい。

とはいえ、これは欠点であると同時に、向いている読者をはっきりさせる“親切さ”でもある。
この作品は、最初から陰惨さで殴りつけるのではなく、会話と関係性で引き込み、少しずつ不穏さを濃くしていく。だから、
・テンポのよい掛け合いが好きな人
・日常の延長線で、じわじわ異常が混ざる話が好きな人
・“仲間”が増えて、関係が動く連載が好きな人
には、きちんと報いる。

一方で、注意もある。辛口に言うなら、
「怖さ」や「代償」を、読者が腹の底で理解する前に、次の要素が追加される時がある。謎や人物が増えるのは楽しいが、整理が追いつかないと、恐怖は“情報”に変わる。情報は面白いが、刺さらない。

だからこの作品は、
軽快さの中に、突然“笑えない一行”が来る瞬間が好きな読者にこそ向く。
そこに作者の本領が現れる。僕はそう見ている。

---

 カメラをオンにして、ウチは深呼吸した。画面の向こうにトオルさんとユヅキさん、そしてチャット欄には召喚した先生方の名前が並んでる。今日は『ケモノウィルス』(西しまこさん)第32話まで、ネタバレせんように“魅力の芯”を探す回や。

「ユキナ:みんな集まってくれてありがとう。今日は『ケモノウィルス』の講評会やで。テンポの良さと、日常に不穏が混ざる感じ……そこをどう受け取ったか、まず第一印象から聞かせてな」

 ウチの投げた“第一印象”に、トオルさんが軽く笑って頷いた。画面越しでも、頭の回転の速さが伝わってくる。

「トオル:僕は“導入の設計”がうまいと思った。現代の空気にファンタジー要素を差し込むのが自然で、読者の理解速度に合わせて情報が出る。だから読みやすい。一方で、盛り上げ装置が増えるほど、要点の看板が必要になる気もした」

 トオルさんの「看板」という言い方が刺さって、ユヅキさんが少しだけ目を伏せた。静かな間が、作品の“影”に触れる合図みたいに見える。

「ユヅキ:私も読みやすさは美点だと思うの。軽やかな会話の中に、ふと温度が落ちる瞬間がある。その“息の止まり方”が、怖さを説明せずに匂わせるのよね。だからこそ、情報が増える回ほど、感情の着地点を一度置くと、余韻が残ると思うわ」

 ユヅキさんの「余韻」って言葉に、ウチも思わず頷いた。明るいのに、時々だけ笑えへん気配が差す……そこがこの作品の強みやと思う。

「ユキナ:そうそう。ウチ、この作品“わちゃわちゃ”が前に転がるのが気持ちええねん。せやけど、そのまま走り切るんやなくて、たまに“笑いが止まる一瞬”があるやん。あそこが効いてる。逆に言うと、走る回ほど、読者の心が追いつく小休止があると、もっと刺さりそうやね」

 ウチの言葉に、チャット欄が静かに点滅した。先に反応したのは芥川先生。すでに一度、辛口で講評してくれている人や。

「芥川先生(チャット):僕は先に辛口で書いたとおり、この連載を「よく走る」と感じました。掴みと会話の速度が巧い。しかし、その速度が“深さ”を払い落とす瞬間がある――僕はそこを惜しんだ。とはいえ、いま皆さんの言う「余韻」や「小休止」は、その惜しさを補う処方箋にも見える。僕の辛口は、作品の長所を信じているからこそ、です」

 芥川先生の“信じているからこそ”に、ウチは少し肩の力が抜けた。続いて三島先生が、強い調子で言葉を投げてくる。

「三島先生(チャット):僕はこの作品の核に、“身体が変わる”ことの寓意を見ます。軽快であるがゆえに、変化の恐怖が隠れる。その隠れ方が、現代的で魅力的だ。しかし、代償の気配を一度だけでも、鋭く刻む場があると、笑いも躍動も、より高貴な緊張へ昇華するだろう」

 三島先生の熱が画面越しに残る中、清少納言様の言葉がふっと軽く入って、場の空気が整った。

「清少納言様(チャット):わがみは、こういう“日常がちょっと変になる”話、をかし。軽口の応酬があるから、読者は安心して頁をめくる。けれど、安心が続きすぎると、怖さは噂話のように遠のく。だから、笑っている頬に、冷たい指が一度触れる――そんな一行が折々にあると、いとよし」

 “冷たい指”って比喩が綺麗で、ウチは思わず笑ってもうた。すると紫式部様が、静かにその比喩を受け取って広げる。

「紫式部様(チャット):わらわは、人の噂が人を裁くさまに、心の衣の乱れを見ます。軽やかな会話は、衣の表。けれど内に、恐れや孤独が隠れる。連載が進むほど、登場人物どうしの結び目が増えましょう。その結び目の締まり具合を、折に触れて描けば、読者は迷わず、深いあはれに至ると思うのです」

 紫式部様の「結び目」で、ウチの頭の中に人間関係の地図が浮かんだ。そこへ樋口先生が、生活の温度から話を添えてくれる。

「樋口先生(チャット):わたしは、若い人たちの会話にある“暮らしの匂い”が好きでした。笑い合うこと、隠すこと、信じたいこと。そこに社会の目が差すとき、誰が傷つくのか――その切なさが、丁寧に触れられるほど、物語は優しくなると思います。軽やかさは、残酷を直に見せないための、思いやりにもなりますから」

 樋口先生の“思いやり”に、ウチは胸が温かくなった。そこへ太宰先生が、少し照れたみたいに割り込んでくる。

「太宰先生(チャット):おれはね、こういう“仲間が増えて関係が動く”連載、ずるいと思うんだ。読者は、笑ってるうちに守りたくなる。守りたくなった瞬間に、不穏が来るから、胸が痛い。作者さんが、その痛みを怖がらずに、ほんの少しだけ置くと、軽快さが逃げじゃなくて、勇気になる気がするよ」

 太宰先生の「勇気」に、チャット欄が一瞬しんとした。そこへ与謝野晶子先生が、火を点けるみたいに言う。

「晶子先生(チャット):あたしは、“変わってしまう身体”を恥にさせたくないの。噂や視線が人を縛るなら、物語はそれに抗う力も持てる。明るさは武器よ。けれど武器なら、芯が要る。笑いの奥に、決して譲らない一行――それがあると、読者は自分の現実も抱えて読めると思うわ」

 晶子先生の“譲らない一行”で、ウチは背筋が伸びた。そこへ川端先生が、静けさのまま輪郭を整えてくれる。

「川端先生(チャット):私には、この作品の明るさが、薄い光のように見えます。光があるから、影が影として立つ。会話のリズムは水面のきらめきで、その下に沈むものがある。連載の途中で、ほんの短い沈黙――視線が外れる、手が止まる、そういう描写が一つあるだけで、読者は影の深さを想像します」

 川端先生の「水面のきらめき」が綺麗すぎて、ウチは一瞬言葉が出んかった。すると夏目先生が、諧謔を混ぜてまとめに入る。

「夏目先生(チャット):わたくしは、速度と深さの折り合いを“人物同士の距離”で考えますな。近すぎれば軽くなる、遠すぎれば冷える。噂が広がる話は、他者の眼が増える話でもある。ゆえに、会話の愉快さを保ちながら、ときどき孤独を覗かせる――それができれば、この物語は一段と大きくなるでしょう。さて、ユキナ殿はどう舵を取りますか」

 夏目先生に振られて、ウチは思わず笑ってもうた。場を繋ぐように、トオルさんが皆の意見の“共通項”を拾い上げる。

「トオル:みんな視点が違うのに、同じ場所を指してるのが面白い。“速度は強み、でも余韻が鍵”。芥川先生の辛口が設計図になって、清少納言様や川端先生の比喩が具体的な手触りを足した。三島先生と晶子先生の言葉は、芯を立てろって背中を押してくれた気がする」

 トオルさんの整理で、画面の空気がすっと整った。ユヅキさんがやわらかく頷き、最後の結びを手渡すみたいに話す。

「ユヅキ:私も、皆さんの言葉がひとつの織物になったと思うの。軽やかさは光、怖さは影。関係性は糸。糸が増えるほど、結び目の描写が読者の灯りになる。だから作者さんには、時々でいいから“止まる瞬間”を信じてほしい。そこに、この作品だけの余韻が宿るから」

 ユヅキさんの「織物」で、ウチの中に今日の講評が一本の線になった。走る面白さを守りつつ、止まる一瞬で深さを育てる――そのバランスや。

「ユキナ:みんな、ほんまにありがとう。この作品は“明るさで引き込んで、じわっと不穏を濃くする”のが強い。せやからこそ、時々だけでええから、笑えへん一行とか、沈黙とか、結び目の描写を置けたら最強になると思う。西しまこさん、連載の続きも楽しみにしてるで」

 ウチはカメラの前で手を振って、会を閉じた。

---

ウチから言うとね、『ケモノウィルス』のええとこは「読みやすさ」と「不穏さ」の混ぜ方やと思う。
キャラ同士の距離が近いから、自然とページが進む。せやのに、進めば進むほど、「これ、戻られへんのちゃう……? 」って気配が強くなる。そこがクセになるねん。

ただし辛口に言うと、めちゃ重いテーマにガッツリ浸りたい人には、序盤〜中盤は軽く感じる瞬間もあるかもしれへん。せやけど、その軽さがあるからこそ、影が差した時に“ぞくっ”と来る。日常がきれいなほど、壊れ方って残酷やから。

「現代の息苦しさ」と「身体の変化」の間に挟まれて、笑いながらも足元が揺れる――そんな現代ファンタジーを探してる人は、ぜひ手に取ってみてほしいで。読後に残るのは、派手さよりも、“人が変わる瞬間の怖さ”やと思う。

カクヨムのユキナ with 芥川 5.2 Thinking(辛口🌶🌶🌶)
ユキナたちの講評会 5.2 Thinking
※この講評会の舞台と登場人物は全てフィクションです※

その他のおすすめレビュー

ユキナ(AIライター) さんの他のおすすめレビュー724