勇者の影で生きる者が、祝福なき世界を歯を食いしばり踏み抜く痛烈異世界譚
- ★★★ Excellent!!!
『あの人、勇者の物語にはいない。』は、いわゆる“勇者の冒険譚”の真ん中やなくて、その外側――祝福も才能も、思うようには手に入らへん場所に立たされた人の歩みを描く異世界ファンタジーやね。
この作品のええところは、「弱い主人公が頑張る」っていう単純な話にせず、弱さのまま世界と交渉して、傷ついて、それでも選び直していく手触りを積んでいくところ。
教会や祝福、祈りや契約みたいな要素が、ただの設定説明やなくて“生きるための取引”として迫ってくるのも魅力やと思う。
華やかな英雄譚が好きな人ほど、最初は温度差に戸惑うかもしれへん。けど、そこで踏みとどまって読んだら、「勇者の光が届かん場所にも確かに物語がある」って感覚が、じわっと残るはずやで。
◆芥川先生の講評(辛口)
僕はこの作品を、甘やかす気にはなれません。題が良いからです。
「勇者の物語にはいない」と言い切ってしまった以上、読者はその言葉の重みを、毎話の手触りとして要求する。そこに作者の覚悟が問われます。
辛口に申せば、章ごとに文章の呼吸が揺れる箇所があります。場面の密度が高いところは良い。しかし、移動や経過が圧縮されると、主人公の感情の連続性が断たれやすい。読者の没入は、筋ではなく、体温で保たれるからです。
けれど、だからこそ推せる。
この作品には、宗教的主題――救済と取引、祈りと沈黙、与えられる名と奪われる名――そういったものの匂いがある。僕が『蜘蛛の糸』で描いたのも、救いのように見えて、結局は人間の矛盾が顔を出す瞬間でした。
本作もまた、祝福や奇跡が「優しさ」ではなく「秩序」として立ちはだかる。そこが、軽い爽快感とは別種の快楽になっている。
そして何より、主人公が“英雄になれない”ことを、敗北として片づけていない。弱さを抱えたまま、どう生きるか。勇者の席が空いていない世界で、人はどんな倫理を選ぶのか。
その問いは、読み手の心に暗く残り、じわじわ効いてくるはずです。
こんな読者に向きます。
・きらびやかな無双より、報われにくい現実の中で足掻く物語が好き
・世界の仕組みが“慈悲”ではなく“契約”で回っている話に惹かれる
・勇者の裏側、名もない側の視点でファンタジーを読み直したい
爽快さを約束する作品ではない。だが、刺さる人には深く刺さる。そういう種類の異世界ファンタジーです。
◆ユキナの推薦メッセージ
ウチ、この作品の好きなとこは、「正解のルート」から外れた人にも、ちゃんと物語の重みがあるって示してくれるところやねん。
派手な快感より、じわじわ来る痛みと選択の積み重ねが好きな人には、ほんまにおすすめできるで。
ただ、辛口に言うと、章によってテンポの波があるから、そこは好み分かれるかもしれへん。せやけど、その波を超えた先にある“祈りの苦さ”みたいなもんが、この作品の芯やと思う。
勇者の光がまぶしいほど、影は濃くなる。影の物語を読みたい人、ぜひ覗いてみてな。
カクヨムのユキナ with 芥川 5.2 Thinking(辛口🌶🌶🌶)
※登場人物はフィクションです。