正体が能力として覚醒する瞬間、個はどこまで人間でいられるのか

この物語の魅力は、獣化という派手な設定よりも、力を得た瞬間に人間関係が静かに反転していくところにあります。

主人公・朔とうららの日常の温度はそのままに、失踪の噂や同級生の豹変がじわりと世界の輪郭を揺らし、異能が現実へ食い込んでくる感覚がとても自然です。

特に、田部井の章では力を持つことが救いではなく、心の奥の歪みをそのまま増幅させてしまう様子が印象的で、物語にもう一段深い影を落としています。

バトルではなく、能力と人間関係がどう変形していくか を描く作品を読みたい人に、おすすめしたくなる一作です。

静かに広がる緊張と、関係のゆっくりした反転が心地よい余韻を残します。