砂漠で拾ったのは、記憶喪失の少女——そして、取り返しのつかない運命。

砂漠の夜の冷えと、朝の光の刺すような眩しさ。
その温度差まで、文章で連れていかれる作品です。
読み始めた瞬間から、砂を踏む足裏の感触と、風に混じる乾いた香りが鼻先に来て、気づけばこちらの呼吸まで、乾いた風に馴染んでいきました。

青い瞳の盗賊ラズールが出会うのは、記憶を失った少女シャーラ。
彼女の正体を匂わせる"印"と、「伝説の都」へ向かう縦軸が最初から強い引力になっていて、ページをめくるほどに謎は深く、旅は過酷に——なのに二人の距離だけが静かにあたたかくなる。
このバランスが本当に気持ちいいです。

そして刺さったのが、"名付け"の場面。
名前を与えるって、優しさであり責任であり、同時に「もう無関係ではいられない」という誓いみたいなものでもある。
その一瞬にロマンスの火種が灯る感じがして、心臓を掴まれました。

過酷な旅路の気配、迫る影、守ることの代償。
「宝」ではなく「ひとりの人」として彼女を見ようとする視線が、ラズールの不器用な優しさとして滲むたび、胸が熱くなります。

ここまで読んで気になった人は、迷わず1話へ。
砂漠の風と、謎と、切なさの予感に、きっと持っていかれます。

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