第49話【1番の価値】

 僕ら1万人のモブにとって、1番というのは耐え難い魅力に包まれている。どれだけ努力しても、作戦を練っても、精神を安定させたとしても――……。僕ら凡人の世界では、1番とはほとんど取れないダイヤの塊なのだ。


 そこに立つのは、僕か、僕以外か。たったそれだけの勝負なのに、その勝負に挑み、心を腐らせてしまった人は、きっと、とても多いのだろう。


 世の中には天才という人種がいて、彼らはいとも容易くNo.1を掻っ攫っていく。誰にも断りを入れず、別に、努力するでもなく。ある時彗星のようにその場に現れては、僕らの醜い努力を前に、悠然とダイヤを手にするのだ。


 努力なんて結局のところ、自分を天才だと勘違いするための道具に過ぎないのかもしれない。持って生まれたものの貧しさに心を痛めて、それから逃げようとする心理機能より生まれた、ただの現実逃避かもしれない。


 僕ら凡人1万人全員は、きっとその現実逃避すらもやめてしまった、人間や天才の成れの果てなのだろう。いや、あるいは天才という人間を嫌うという共通点で繋がった……とても大きな生命体なのかもしれない。


 僕がそんなことを並べてまた考えに耽っても、僕の目の前に転がる現実は、一向に僕の前を退こうとはしなかった。


 ――お前は、負けたんだ。お前は今から、ここで死ぬんだ。


 僕にそう言い聞かせるように。僕の脳に、善意の毒素をこれでもかと流し込むように。



「…………え……」



 僕は、声を零した。とても情けない、か細い声だった。高くて、細くて、それでいて弱々しい……それは、僕という人間の身体を借りた、僕じゃない誰かの声みたいだった。


 僕は自身が発したその声を聞いて、ようやく意識を現実に引き戻した。ぼやけていた視界がやけに鮮明になって、その彩度の高さに困惑してしまう。ちらりと周囲の光景に目を向けようもんなら、その景色は片っ端から僕を嘲笑うがのごとく、ギラついた彩色を見せつけてくる。


 結果発表。彫刻編。


 結果発表。デザイン編。


 結果発表…………



「……157、票…………」



 絵画編。



 僕の視界で揺れ動くスクリーンは、ゆらゆらと曖昧な運命を表すように、僕らの順位を提示してきた。デザイン編や彫刻編の順位を見る余裕は全然無くて、他のチームの結果は全くわからない。


 僕が唯一わかるのは……


「…………ははっ、あ、ははっ、ハハハハハ……!!」


 

 僕らのチームは伊藤の才能に負け……今から殺されるという事実のみだ。



 ――僕がその事実を知った時、まっさきに口から零れ落ちたのは、絶望でも怒りでも悲しみでもなく、タダノ乾いた笑い声だった。何も面白くない、むしろ悲しくて、恐ろしくて仕方がないはずなのに……


「ははっ、ハハハハ! アハハハハハ!!」


 僕は、目を見開いて、感情も何も追いつかないまま、ただひたすらに笑っていた。ヒュッ、と肺に入ってくる空気が、いつもよりしょっぱく感じられる。笑い度に揺れる僕の身体が、いつもより他人事のように感じる。僕の目の前に広がる全てが、まるで子供が創った絵画のように、単純化され処理されていく。

 


「嘘……だろ…………?」

「俺ら、あんなに頑張ったのに……」

「あ……あぁ……!」



 声にならない、絶望。声を伴った、絶望。



 僕ら15人の仲間が共有したのは、きっと、上手く伝えられないような……その場の空気そのものだったのだろう。重くもないし、軽くもない。明るくはないけど、絶望でもない。


 ただ、ただ、怖いだけ。目の前のことが、解らないだけ。


 僕は、そんな凍りついた心と現実の間で、ひたすらに問答を繰り返していた。



 ……ああ、僕は一体、どこで間違えてしまったのだろう?


 僕は、もし今からやり直せるとするならば……あのゲーム内のいつに戻ればいいんだろう? …………いや、そんなことはできない。それは、僕が1番よくわかってる。僕が例えば、例の男から絵を教えてくれと頼まれた時に……断っていたら、結果は違かったのかもしれない。あるいは、伊藤と一緒に絵を教えに行けば、まだ、守ってあげられたかもしれない。


 僕にはまだできることが何個もあったのに――……それをしなかったのは結局、僕が愚かで思慮の浅い……ただの凡人であったが故だ。


 ……ああ。ああ、ああ!! ああ、僕はなんて愚かなんだろう!! 僕は、一体何のために、今まで頑張ってきたのだろいう!! もっとああできた、もっと頑張れた……いつも、いつもそうやって反省するフリばかりして、結局行動は変わっていないじゃないか!!


 僕は、今から、死ぬんだぞ!? 僕が、僕が余計なことをしたせいで……ここに居る15人全員を、僕が! 皆! 殺すんだ!!



「っ……あぁ……ああ……!!」



 そう思った時、僕の口から溢れ出たのは、誰よりも幼く無力な声……まるで、赤子のような泣き声だった。


 慟哭。嗚咽。衝動。発作。それっぽく僕を飾り立てる言葉は無数にあるけれど、そのどれひとつとして、今の僕には不釣り合いなものだった。


 僕はそんなに理性的じゃない。僕はそんなに強くもない。僕はそんなに自分の心を客観的に分析できない。


「うあ、ああ、ああああぁっぁぁぁぁ!!!!」



 ――僕は、身体ばかり大きい、ただの、無力な幼子だ。



 戦慄した。電流が走った。背骨を駆け抜け、脳髄に達し、僕の衝動は化け物となった。ああ、ああ、と呻き散らすだけの、なんの得にもならないただのゴミだ。


 157票、667票。ほぼ、4倍の得票点。


 あんなに頑張ったのに、あんなに努力したのに、あんなに工夫うして……1番になろうと思ったのに。


 ……なのに、1番の椅子は、こんなにも遠く……難しいのか……?



 僕は震えの止まらない身体でそう考え、そして、静かに絶望した。



「…………ですから…………」

「――――か!?」



 ……ああ。もうダメだ。


 僕は、もうここで死んでいくんだ。




「……を発見し――」

「…………だろ!?」

 


 僕は、もう誰にも認知されることもなく、この場で、静かに死んでいくんだ……。ああ、父さん、母さん、今までありがとう……。死にたくないです、死にたくないですが……。このどうしようもないバカ息子は、出来の悪い可愛げのない息子は……今日、この場で死んでいきます。




 僕が走馬灯の最後に見たのは、伊藤が脅されて描いたという……あの、ビビッドカラーでテーマも不明な……でも、とても綺麗な絵だった。

 



ーーーーーーー




 最新話まで読んでいただきありがとうございました。


 圧倒的点差で伊藤の絵に負けた15人。

 彼らの命の灯火は、もうあと数分まで差し迫っていますが……?


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 ではまた明日お会いしましょう。

 宮瀬優樹でした。

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デスゲームでモブは生き残れるか〜無個性の凡人とバカにされた僕が天才になるまでの1ヶ月間〜 宮瀬優樹 @Promise13

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