本作、短いながらもしっかり拝読しました。 読了後、真っ赤な風車がクルクルと回り続ける残像が、いつまでも残っているようでした。
こちらの作品は、「細い剣は折れる」というモチーフが物語全体を貫いていました。 幼い宗次郎が丸太を振り回しながら叫んだ「細い刀では駄目なんです、兄上!」という言葉。 これが後に山南敬助の運命を決定づける場面で鮮やかに回収されたときは、1万字に満たない作品でありながら、深みのある構成だと思いました。
また、何気ない童の言葉があれほど重い予言として機能していたとは……。 序盤に配置された一言が、物語の核心を射抜いていたことに気づいた時、作者の設計力に深く感動しました。
もう一点、私の心を掴んで離さなかったのは、語り手の「認識のズレ」が生む悲劇性です。 若い妻が「老いた母」にしか見えないという描写が大変素晴らしかったです。 「旦那様ッ!!」と泣き伏す女性の悲痛さと、それを「母上」と呼ぶ語り手の断絶。 この残酷な齟齬が、怪談でありながら純文学の深みを持つ所以だと感じます。
そして、沖田総司が山南の手を握りながら「魂呼び」を叫ぶあの場面に、言葉にならない兄弟愛を受け取りました。
輪廻の輪が回り続けるこの物語は、大変読み応えのある素晴らしい作品でした。
本作「とんがらし地蔵」は、新選組副長・山南敬助という史実上の人物を軸に、
父と子、生と死、継承と代替、愛と罪を重ねて描いた幻想歴史譚です。
人格の交替を、単なる「魂の入れ替わり」ではなく、
役割が引き継がれていく過程として描いている点が印象的でした。
父を否定しきれない要助の歪んだ感情と、
二人称を基調とした不安定な語りが重なり合い、
読者に説明されない違和感を静かに積み重ねていきます。
「完」と記されながら、どこか終わっていないように感じられる読後感も強く、
不確かさは周到に組み立てられ、
確かな手応えとして読み手の側に残してゆきます。
歴史小説の枠を越えた読書体験を求める人にすすめたい一編です。
ホラーということでタイトルから「水子」といった連想をして読み始めましたが、
冒頭の一行は、想像以上に強烈でした。
——お父さん、あなたは私を殺しましたね?
最初は、成仏できずに気になって見守っている存在なのだろうか、
その程度の距離感で読んでいました。
しかし後半に進むにつれ、いわゆる恐怖表現とは違う、
説明しづらい不思議な感覚が、じわじわとまとわりついてきます。
叫ぶような怖さではなく、
読み終えたあとも離れない余韻の怖さです。
ほんの数フレーズしかない童歌が、頭に残ります。
タイトルの「とんがらし地蔵」は、
沖田総司の出身地にあるお地蔵さまに由来するものなのですね。
山南敬助という“史実の器”に、架空の子・要助の怨念と慈しみを重ねていく発想がとても強い作品でした。
父を「殺した者」と断じながらも、その後の人生の罪・贖い・執着がじわじわ絡み合い、読者の感情を白黒で割り切らせないのが魅力です。
とんがらし地蔵(細い剣/太い刀)のモチーフが、幼い宗次郎の記憶から芹沢粛清、折れた赤心沖光へと繋がり、因果の輪が回り続ける構成が見事。
終盤、魂の主導権が揺れたり、「母」が“老いて見える”視界の歪みが出たりして、怪談めいた不穏さが一気に濃くなるのも刺さりました。
歴史小説・怪異譚・父子の業が混ざり合って、最後の風車の回転まで「終わらない物語」の余韻が残ります。