死んだ令嬢が帳簿を武器に──崩れた辺境砦から帝国を再生する

華やかな舞踏会の喧騒の裏で
父から渡されるのは〝空欄の死亡届〟

明日までに王都を発つよう告げられた瞬間
少女の世界は音を失い
帳簿から名が消える――

その冷たさが、逆に息をさせる導入でした。

そして
「泣く暇があれば、数字を見ろ」という言葉が
彼女の背骨になる。

感情を殺すのではなく
守るべきものを見失わないための
算術なのだと滲みます。

辿り着くのは
崩れかけた石壁のヴァルム砦――

〝帝国の帳簿で死んだ女〟が
再び生きる場所。

ここを〝盤面のゼロ地点〟として捉え
『第0ゲーム:試験国家ヴァルム』を
自ら書き込む感覚が鮮烈で
物語が一気に〝国家〟へ接続されます。

敗軍の将カイ・フォン・ヴォルフと
死人文官シュアラ

切り捨てられた二つの駒が
同じ盤上に置かれる瞬間の緊張が美しい──

「この砦を、三ヶ月だけ私に貸してください」――
交渉は甘さではなく、覚悟の硬さで進む。

さらに〝七割が死ぬ〟という試算を
淡々と差し出す場面は
数字が刃にも祈りにもなることを
突きつけてきます。

戦記でも政略でもなく
帳簿という沈黙の武器で世界を組み替える再建譚。

紙とインク、石と冷気の手触りが濃く
続きが読みたいと思わせる熱が、確かに残ります!

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