静かに崩れて、静かに立ち上がる物語

最初の数行で「あ、この作者さん、空気の層を扱える人だな」と思いました。

派手な展開を求める人には向かないかもしれません。
けれど、構造の密度が高い物語が好きな人には、かなり刺さるタイプです。

舞踏会での温度、視線の重さ、布の張りつき、人物同士の認識の速度差。
こういう細かい観測が、物語全体の土台を静かに形づくっています。

テンプレ風のシーンでも、
外側ではなく 内側の論理で動いているのがよく分かりますね。

気を抜いて読むと見落とすような小さな歪みが、後半に入る頃にはちゃんと効いてくる。

個人的には、エリアーナの「感情より構造が先に動く」描写が好みでした。

彼女の視点は淡々としているのに、感情がないのではなく、感情に押し流されないだけ。
その温度の低さが、逆に読者の方でじわっと温度を作らされる。

派手さよりも、
「気づいたときには世界が一段深く沈んでいる」
そんな読み心地を味わいたい人には、ぜひ手に取ってほしい作品でした。

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