神話から始まる星の世界を、少女の旅が優しく切り開く物語

宇宙創世の神話から始まり
星々と七大陸
母なる木プリムスが生まれる――

その壮大な神話譚と
少しポンコツで愛らしい少女エナの旅路が
やわらかく地続きになっていく物語です。

重く荘厳な「星族」の系譜や
「悪魔の子」「神獣」「魔の森」
といった言葉が並ぶ一方で

エナは本当は
冒険小説が読みたい年頃の女の子。

毒舌ぎみの天才薬師カリタス
寡黙な仮面騎士スピーヌス
巨大な狼リキ

そして
どこか憎めない大人たちとのやりとりが
港町や船上、氷の大陸、魔の森といった
舞台を軽やかに彩ります。

焚き火のぬくもり
まずいイカ墨パンの食感
雪を踏む足音──

細部の描写がとても生き生きしていて
頁をめくるたびに
星の光と吐く息の白さが
目の前に立ち上がるようでした。

やがて「魔の森」で姿を現す〝何か〟と
謎めいた白髪の少女の存在が
旅物語に静かな不穏さと
神話的な気配を添えていきます。

神話級のスケールと
人間くさくてちょっと笑える旅の空気。

そのどちらも好きな人には
続きが気になって仕方なくなる一作です。

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