渓谷に潜る者

海の街で生まれ育った「おれ」。しかし、その海はヘドロと悪臭に満ちた工業地帯の汚れた海だった。幼い頃から透き通る「綺麗な水」に憧れ続けた彼は、34歳でキャニオニングと出会う。

キャニオニング――ロープやハーネスを使って滝を懸垂下降し、渓谷を下っていくスポーツ。エメラルドグリーンの淵、轟音を立てる滝、人工物のない原始の自然。ついに見つけた理想の世界で、彼は一人、日本各地の渓谷に潜り続ける。

だが、美しい水には理由があった。何かが守っているから、綺麗なのだ。そして、その「何か」は人間を歓迎していない――

渓谷で遭遇する説明のつかない現象の数々を、書き起こした実録怪談集。