第3話

いつから株に手を出したのか定かではない。


ただ二十代の時は、こちらの世界――夢の世界で、給料が物凄くいい会社で働き、三十になって辞めて株式投資をしている。


宝くじがこの夢の中で二億当たったのだ。


その資金をもとに、株式投資に手を出したと思う。


そしてかなりのもうけを出している。


夢の中では、現実と同じ家に住んでいるが両親はおらず、一人暮らしだ。


そして自分の部屋で、毎日のようにパソコンを見て株式トレードをしている。今日はまだ売らずにおこう。全体的に株が下がっている。


買いたいと思えるものもない。


そんなことを考えながら、株の数字を目で追う。うん、やっぱり今日は売り買いをしない。


くるみは、ここが夢の世界だと分かっていた。


会社名も、現実世界では知らないところばかり。でも、夢の中では金持ちで、実家と同じ家でも一人でのびのびと過ごしている。隣人も、現実世界では同じ家だが全く知らない人が住んでいる。挨拶すら交わさない。


なんでこのような夢を見るようになったのかはわからない。ただの願望の表れだろうか。


よくわからないが、くるみは現実世界のほかに、連続的に日常生活を送っている夢の世界で過ごしている。  


通帳を見れば、六億円ある。四億は株式投資でもうけたお金だ。


そんな通帳を眺めながら、呟く。


「せめて夢の中だけでも家を買いたいよなぁ……」


現実世界でも、夢の中でも、一寸先は闇というより真っ白。本当に未来が真っ白に見える。


人生、なにも書かれていない物語と同じだ。どうなるかわからない。


でも。家、買ってもよくない? 


これだけ大金を持っているのならば、夢の中で家を買えばいい。 


そう思うと、パソコンに飛びつき、すぐに不動産会社を見ることにした。


どんな家がいいだろう。六億あれば新築が買える。マンション? 戸建て? 


検索してみる。夢の中でも、渋谷や新宿など、現実と同じ地名は存在している。


ただ、現実世界にはない、知らない地名もある。こまごまとした地名は、現実とは異なり、変わっている。


まずは、どこに住みたいか。それを考えよう。実家は東神奈川だ。東京より神奈川のほうがいい。


東京はゴミの分別が面倒だと聞く。それに神奈川は東京に近いし、住みやすくはある。


じゃあ神奈川にして……。場所を決める。


父の仕事場の近くのほうがいいかな。あ、いや、別に夢の中には両親がいないのだから考えなくてもいい。


神奈川一帯で、数ある不動産会社のサイトの一つに検索をかける。


マンションや戸建て住宅などがいくつもヒットした。綺麗な家でのんびり暮らしたい。どういうイメージにしようか。まず3LDK以上なのは譲れない。


狭い家は嫌なのだ。リビングも広いほうがいい。


サイトには、間取りの描かれたものがいくつも出てくる。


だが、こういうのって実際足を運んでみないと分からない。このまま不動産会社に連絡を取って、紹介してもらい、現地に足を運んだほうがいい。


間取りが良くても、スーパーや病院、家電量販店などが近くにないと困るのだから。


そう思って、不動産会社を選んでいく。


まずはいい不動産会社を選ばなくては。


戸建てとマンションならば、戸建てかな。マンションも住み心地や眺望は良さそうだけれど、災害があったときは絶対困る。


多分、一棟丸ごと停電になったり断水になったりするだろう。となると、やっぱり、戸建て。


実家は周囲にたくさんマンションが建っていてあまり日が当たらないから日当たり良好なところ。


利便性はいいけど、自然も感じられるような、そんなところがいい。


くるみは数多あるサイトから、良さそうな戸建ての間取りを見つけた。


4LDKで、日当たり良好、トイレと洗面台は一階と二階に二つある。


うん、ここは良さそうだ。ただ、知らない地名で行ってみないと分からない。


電話で連絡を取ることにした。夢の中でもスマホは使える。しかも、通信事業者は、現実世界とは全く異なる会社が運営しており、引き落とされる月々の費用も安い。


とりあえず、スマホから連絡してみることにした。


コール音が三回鳴って、相手が出る。


「お待たせいたしました、株式会社ドリーム&ハウスドリームです」


女性の声が聞こえてきた。


「恐れ入ります。ネットで家を見たのですが。戸建ての家で。見学をしたいと思いまして」


「どちらの、おうちでしょうか」


くるみはサイトの名前と、家の間取りをパソコンを見ながら伝えた。すると、ああ、と納得したような声が聞こえてきた。


「はい。そちらの物件、見学は可能です。ご都合の良い日はございますか」


「なるべく早いほうがいいので、明日にでも」


「かしこまりました。では、明日午前十時に、弊社までお越しください」


夢の中でも時間はある。それは、現実世界とは異なる。今眠っているのが現実世界で午前零時だとしたら、夢の中では午前九時。夢の中でも二十四時間あって、時間の経過もちゃんと感じられる。


だが、夢の中の二十四時間のうち、八時間くらいで現実世界に引き戻される。実際に眠っていた時間だ。


「わかりました。ドリーム&ハウスドリームさんですね」


地図はサイトに書かれている。大丈夫だ。現実にはない場所だけれど、パソコンから検索すれば、すぐにルートを調べられる。


夢の中の実家から、三駅先で乗り換え、五駅先の場所にある。


「はい、ではお待ちしております」


「よろしくお願いいたします」


夢の中で家を買う。夢だけれど、理想のマイホームが手に入る。


そう思うと、喜びが湧いてきた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月26日 07:00
2025年12月26日 07:01
2025年12月27日 07:00

夢の中不動産 明(めい) @uminosora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画