あの人、勇者の物語にはいない。

ゼリオニック

第1話 1-1 悲しみのリース

パーティーの基本は、冒険者最低四人で構成される。決まった形はないが、大抵は戦士と魔法使いの組み合わせが主流だ。


多くのパーティーが四人以上いるけど、五人にはならない。なぜなら五人目が「長く一緒にいられない」奴になるからだ。どっちにしろパーティーから消える運命で、死ぬか生きるか。みんなそれを「五人目の呪い」と呼ぶ。


そしてこれは、そんな「五人目」だった少年の物語だ。


ある借家のホールで、灰色の髪の少年が、顔を曇らせてテーブルに座っていた。仲間四人と一緒だ。雰囲気は息苦しく、暖炉の炎が激しく揺らめき、燃え盛る。まるで罪人を糾弾する会議みたいだ。


「リース!! お前はこのパーティーから出てけ!!!」


金色の髪が輝くような少年が、激しく叫ぶ。まるで目の前の少年が大罪を犯したかのように。彼は剣を突き刺すようにリースの前に置く。五番目のメンバーだ。


「どうしてだよ、ヴィクター。俺、何か悪いことしたか?」


リースは震える声で聞き返す。


「理由は簡単だ。お前が弱いからだ!!」


金髪の少年が吠える。でもそれは本当だ。他のメンバーと比べて、リースは本当に弱い。戦闘スキルなんて、尘ほども及ばない。


「でも……」


「黙れ、リース!!」


今度は赤い髪が炎のように燃える少女の声だ。彼女の名はアンジェリカ。リースと同じく育った幼馴染だ。今は十四歳だが、「女神の剣」という祝福を持ち、剣技が急成長中。「次代の最強女剣士候補」と呼ばれている。


「私たち四人で決めたよ。お前を追放するって」


アンジェリカの激しい声が、リースの心を粉砕する。


どうして……アンジェ。俺とお前、一緒に冒険して、世界を駆け巡って有名な冒険者になるって夢、共有してたのに。


リースは心の中で叫ぶ。アンジェリカの言葉で、世界が崩れ落ちるみたいだ。

でも、アンジェリカだけじゃない。


「私、もうお前の面倒見るの飽きたわ、リース。お前みたいな戦えない奴を守りながら戦うの、どれだけ大変かわかってる?」


ルーシー。鎧の女戦士で、「鉄の要塞」という祝福持ち。武器だろうが魔法だろうが、彼女の魔法盾に傷つけるのはほとんど不可能だ。声はアンジェリカほど激しくないけど、満ちた倦怠感。肘をついて、皿の食べ物を弄りながら言う。


最後の奴は何も言わない。ただ蔑む視線でリースを見るだけ。アーニャ。パーティーの魔法使い。祝福はないけど、この街で一番の天才魔法使いだ。


「ふん」


ただ鼻で笑うだけ。でもリースは感じる。あの視線が殺人魔法なら、十回は死んでる。


四人が一致団結したら、リースは口が塞がれる。プレッシャーで目が震える。


爆発したい衝動があるのに、できない。リースはただヴィクターを見るだけ。十五歳なのに、ギルドの高ランク冒険者を簡単に倒す剣士。自分は祝福ないって言うけど、アンジェリカより強い。


ヴィクターは青銅ランク。他の奴らは年齢制限で銅ランクだけど、スキルはそれを遥かに超えてる。


でもリースはまだ錫ランク。初心者レベルで、それ以上行けない。


「諦めろよ、リース!!! お前みたいな奴、もう強くなれないんだよ。出てけ!!!」


ヴィクターの言葉が、リースの胸に剣のように刺さる。少年は呪われたように信じる。もう強くなれないって。


「これ持って、家に帰れよ!!」


リースが黙り込んだのを見て、アンジェリカが大声で言い、硬貨の袋を投げる。

アンジェ……


リースは歯を食いしばる。涙が溢れ、左手で袋を拾い、借家から出る。心は屈辱と悔しさで濁り、泣きじゃくる。


反論なんてできない。


リースは街壁近くの廃墟の古井戸に体を投げ出す。今は暗くて静か。クリスタルのランプの薄い光で、道がかすかに見えるだけ。


リースとアンジェリカはヴィクターのパーティーに入って二年……

この二年、俺は何してたんだ……


泣き疲れて、頭が落ち着くと、リースは過去を振り返る。


自分は神からの祝福もなく、目立つ才能もない。ただ夢見るだけのガキだ。他の奴らは全力で頑張ってるのに。


アンジェリカとヴィクターが剣術に没頭し、ルーシーがルセリア教会の防御魔法を鍛え、アーニャが瞑想と呪文読みに勤しむ中、

リースは何も鍛えなかった。ただ掃除や食事作りしながら、見てるだけ。


みんなが戦う時、リースは隠れるだけ。それ以上でも以下でもない。戦う準備なんて、一度もしたことない。


そうだよ、「五人目の呪い」なんて関係ない。俺自身が、もう強くなれないんだ。


少年は心で思う。


そして、最後は悲しみに包まれ、眠りに落ちる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る