概要
言えなかった一行が、帰る場所になる。
①あらすじ
大学二年の秀雄は、入院した祖母の部屋を片づけるため、神奈川県港南市の月見坂団地へ戻ってきます。けれど、そこで待っていたのは、来年三月で全棟閉鎖という現実でした。築五十年の団地は、取り壊しと住民移転を前に、どこか落ち着かない空気に包まれています。管理事務室では、そっけないけれど絵のうまい葵が働き、自治会では史記が走り回り、都市計画を学ぶ幼なじみの智一は、建て替えの必要性を冷静に口にします。感傷だけでは人を住まわせられない。そんな正論がある一方で、ここにはたしかに、長い時間を積み重ねてきた暮らしの匂いが残っていました。
祖母の部屋で、秀雄は古い菓子缶を見つけます。中に入っていたのは、出せなかった手紙や、誰かの言えなかった気持ちを記した短いメモでした。「言えなかったことは、一行
大学二年の秀雄は、入院した祖母の部屋を片づけるため、神奈川県港南市の月見坂団地へ戻ってきます。けれど、そこで待っていたのは、来年三月で全棟閉鎖という現実でした。築五十年の団地は、取り壊しと住民移転を前に、どこか落ち着かない空気に包まれています。管理事務室では、そっけないけれど絵のうまい葵が働き、自治会では史記が走り回り、都市計画を学ぶ幼なじみの智一は、建て替えの必要性を冷静に口にします。感傷だけでは人を住まわせられない。そんな正論がある一方で、ここにはたしかに、長い時間を積み重ねてきた暮らしの匂いが残っていました。
祖母の部屋で、秀雄は古い菓子缶を見つけます。中に入っていたのは、出せなかった手紙や、誰かの言えなかった気持ちを記した短いメモでした。「言えなかったことは、一行
応援ありがとうございます♪
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!描写の素晴らしさ
この作者の描写が何より素晴らしい。高見順は「描写の後ろに寝てらない」という択一な評論を書き、柄谷行人は「日本近代文学の起源」で描写の発見をまさに発見している。この小説は心理描写があまりなく、人、建物、食事、会話などの描写で小説が成り立っていると言ってもいい。それがまさに肝でそこから主人公並びに登場人物の心理が見え隠れしている。小津安二郎の映画もそんな感じで登場人物のちょっとした会話や動きで全てを表している。この小説にはそのような力がある。とても地味に見えるが、小説の底力が見える。物語が物語を飛び越えて、小説になっている。物語はもういらない。小説である存在感を感じた傑作でした。