人はだれも自分からは逃れ得ない
- ★★★ Excellent!!!
本作は、愛憎の果てに交際中の男を殺めた女の逃亡中の心情を記している。
描かれたのは、妄執に駆られ執着から逃れられず固着する心。
自分自身を自由にできないのだから社会の枷からだって、逃れられるはずもない。
執着から逃れる術はない。
償わない罪が許される場所は、どこにもない。
安心して生きて行ける場所は、どこにもない。
そんな心情と最愛であった我が手で殺めた男の面影が繰り返し綴られる。
閉塞感しかない文章の繰り返しに読む者も追われて、追い詰められる。
愚かしく、どうしようもない、どこにもいけなかった者の記録。
ただ、誰もが賢明に生きられるわけではない。
過たないわけではない。
それでも生きないわけにはいかない。
心の何処かに、仄暗い影を覚えたことのある者なら、とても胸に染みることだろう。
そうでない者も、人間の心情の底を眺められる。
本作は、誰にとっても一読の価値がある作品である。
私は胸に染みた。