愛するクズ男を殺し、25年間逃亡を続けた女を描いた本作。
すぐに捕まり情状酌量の余地をもらったほうが良かったのか、逃げて良かったのか、女はまだ答えを出せないでいる。
時効まであと8時間。
それをひたすら待つ女に、靴音が忍び寄る。
日本海の描写や女の心理など、とても美しい筆致で描かれています。
クズ男を愛してその果てに殺してしまったけれど、優しい笑顔が思い浮かぶという女。
あと8時間。
それを応援してしまう私がいました。
ラストを書き換えたと書かれていましたが、とても素晴らしい出来栄えになっていると思います。
旅情サスペンスを見ているような、重くはらはらする展開が見事でした…!
素敵な短編を読ませて下さってありがとうございます…!とても余韻が残るお話でした…!
本作は、愛憎の果てに交際中の男を殺めた女の逃亡中の心情を記している。
描かれたのは、妄執に駆られ執着から逃れられず固着する心。
自分自身を自由にできないのだから社会の枷からだって、逃れられるはずもない。
執着から逃れる術はない。
償わない罪が許される場所は、どこにもない。
安心して生きて行ける場所は、どこにもない。
そんな心情と最愛であった我が手で殺めた男の面影が繰り返し綴られる。
閉塞感しかない文章の繰り返しに読む者も追われて、追い詰められる。
愚かしく、どうしようもない、どこにもいけなかった者の記録。
ただ、誰もが賢明に生きられるわけではない。
過たないわけではない。
それでも生きないわけにはいかない。
心の何処かに、仄暗い影を覚えたことのある者なら、とても胸に染みることだろう。
そうでない者も、人間の心情の底を眺められる。
本作は、誰にとっても一読の価値がある作品である。
私は胸に染みた。
時効を待って逃げ続けた女の心境を読み綴った、実に踏み込んだテーマを取り扱った本作。
やはり、というべきでしょうか。
後悔はしつつも、どこか自分勝手と言いますか、本心から罪と向き合い、償っているような感じがしないというのが見事です。
もし、彼女が逃げもせずにその場で捕まっていたならば、内心はどうであれ、情状酌量の余地は残されていたのかもしれません。
しかし、約25年……彼女はその期間の事を、勝手に罪滅ぼしの期間であるかのようにすり替え、自身を悲劇のヒロインかのように憐れむことで、何かを償った気になっていただけでした。
ある意味では、じっくりと長い年月をかけて認知を歪ませたとも言えそうです。
テーマの重さもさることながら、サスペンスミステリーの終盤のような奥深いドラマチックさや、湧き上がる大人の侘び寂びを感じる情景を思い浮かべられる、圧倒的な読み応えがある「魅せる」作品です。
ブラックなコーヒー片手に読むもよし、はたまたぬる燗を頂きながら読むもよし。
ちょっと大人な飲み物を相棒にして読みたくなる一作です。
とあるロクでもない男を心の底から愛し、見捨てられ、殺してしまった女。彼女は変装や整形を繰り返して逃げ延び、25年の公訴時効が成立するまで残り8時間となった。
男にボロ雑巾のごとく捨てられてしまい、その拍子に殺してしまったものの、彼女はどうしてもその男の優しさや男前さを忘れられない。
ずっと男を愛し続けるとともに、犯した罪の重さに苦しみ続ける彼女。果たして、彼女を待ち受ける結末とは。
殺人の公訴時効という非常に重いテーマを扱う本作。心情描写や人物描写の筆致が巧みで、心を揺さぶられます。
Web小説としては珍しい正統派の社会派ストーリー。重たい内容ですが、作者様の渾身の魂が込められているのを感じました。是非お楽しみください。
本作は、日頃、いろんな文体・ジャンルの作品を書き、いずれの作品も高評価を得ている作者の作品である。まさに、スポーツ・お笑い・エロス・現代ドラマ・異世界ものまで、5つの顔を持つ作家と言っても過言ではない。
本作、まず文体が素晴らしい!私が大好きな松本清張を彷彿とさせる素晴らしく引き締まった文体。
筆者の新たな境地を示したと言えよう。今までのグラマラスな女性が出てくる小説のイメージからすると、もし、この筆者がカクヨム世界の中にあって逃亡劇を繰り広げれば、まず25年は捕まえられることはなく逃げおおせるであろう。
この変貌変装振りは、ビックリ&リスペクトである。
愛していた男を刺して逃げた女の末路。
時に夜の女として偽の名を振り翳し、度重ねてきた整形で刻みつけた五つの顔を内に秘め、逃げ続けた四半世紀。
自由で広すぎる牢獄のような世界の中を逃げるほどに大切なものを失っていく。
人生の大半をすり減らし、もう失うものなどないと言えるまで。
その心境は如何なものなのか。
果ては極地に訪れる潜在意識の諦観か。
あと8時間で時効を迎える。
その先に待つ未来に思いを馳せるほど、懐古的なまなざしに時間がとけていくようだ。
ノスタルジックな背景描写が支える哀愁の冬の日本海――凛冽なる雪風が高揚する女の心に問いかける。
淡々とした語り口が女の情念を執拗に艶めかせていく作者様の意欲作。
圧倒的な筆力で描いた孤独で儚い人生の縮図を堪能してみてください。
これは殺人を犯し、時効のわずか8時間前まで逃げ続けた女の物語です。語りは女の視点で、事件当日から現在に至るまでの25年間を振り返る形で進みます。
すぐに捕まり10年ほどで出所した方がよかったのか。それとも25年逃げ延びたことに意味があったのか。しかし結局、逃げ続けてもこれからも隠れて生きるしかない現実は変わらない――終わりのない自問自答に、女の心の有り様が生々しく描かれます。
女にも、殺した男に弄ばれたという事情はありました。しかし、女によって人生を狂わされた人間もいるのです。身勝手極まりない女の末路とは果たして。
冬の日本海の荒々しく陰鬱な情景と、女の閉ざされた心情が重なり合い、息苦しいほどの鬱屈へと引きずり込まれるかのようでした。