時効を待って逃げ続けた女の心境を読み綴った、実に踏み込んだテーマを取り扱った本作。
やはり、というべきでしょうか。
後悔はしつつも、どこか自分勝手と言いますか、本心から罪と向き合い、償っているような感じがしないというのが見事です。
もし、彼女が逃げもせずにその場で捕まっていたならば、内心はどうであれ、情状酌量の余地は残されていたのかもしれません。
しかし、約25年……彼女はその期間の事を、勝手に罪滅ぼしの期間であるかのようにすり替え、自身を悲劇のヒロインかのように憐れむことで、何かを償った気になっていただけでした。
ある意味では、じっくりと長い年月をかけて認知を歪ませたとも言えそうです。
テーマの重さもさることながら、サスペンスミステリーの終盤のような奥深いドラマチックさや、湧き上がる大人の侘び寂びを感じる情景を思い浮かべられる、圧倒的な読み応えがある「魅せる」作品です。
ブラックなコーヒー片手に読むもよし、はたまたぬる燗を頂きながら読むもよし。
ちょっと大人な飲み物を相棒にして読みたくなる一作です。
とあるロクでもない男を心の底から愛し、見捨てられ、殺してしまった女。彼女は変装や整形を繰り返して逃げ延び、25年の公訴時効が成立するまで残り8時間となった。
男にボロ雑巾のごとく捨てられてしまい、その拍子に殺してしまったものの、彼女はどうしてもその男の優しさや男前さを忘れられない。
ずっと男を愛し続けるとともに、犯した罪の重さに苦しみ続ける彼女。果たして、彼女を待ち受ける結末とは。
殺人の公訴時効という非常に重いテーマを扱う本作。心情描写や人物描写の筆致が巧みで、心を揺さぶられます。
Web小説としては珍しい正統派の社会派ストーリー。重たい内容ですが、作者様の渾身の魂が込められているのを感じました。是非お楽しみください。
本作は、日頃、いろんな文体・ジャンルの作品を書き、いずれの作品も高評価を得ている作者の作品である。まさに、スポーツ・お笑い・エロス・現代ドラマ・異世界ものまで、5つの顔を持つ作家と言っても過言ではない。
本作、まず文体が素晴らしい!私が大好きな松本清張を彷彿とさせる素晴らしく引き締まった文体。
筆者の新たな境地を示したと言えよう。今までのグラマラスな女性が出てくる小説のイメージからすると、もし、この筆者がカクヨム世界の中にあって逃亡劇を繰り広げれば、まず25年は捕まえられることはなく逃げおおせるであろう。
この変貌変装振りは、ビックリ&リスペクトである。
愛していた男を刺して逃げた女の末路。
時に夜の女として偽の名を振り翳し、度重ねてきた整形で刻みつけた五つの顔を内に秘め、逃げ続けた四半世紀。
自由で広すぎる牢獄のような世界の中を逃げるほどに大切なものを失っていく。
人生の大半をすり減らし、もう失うものなどないと言えるまで。
その心境は如何なものなのか。
果ては極地に訪れる潜在意識の諦観か。
あと8時間で時効を迎える。
その先に待つ未来に思いを馳せるほど、懐古的なまなざしに時間がとけていくようだ。
ノスタルジックな背景描写が支える哀愁の冬の日本海――凛冽なる雪風が高揚する女の心に問いかける。
淡々とした語り口が女の情念を執拗に艶めかせていく作者様の意欲作。
圧倒的な筆力で描いた孤独で儚い人生の縮図を堪能してみてください。
これは殺人を犯し、時効のわずか8時間前まで逃げ続けた女の物語です。語りは女の視点で、事件当日から現在に至るまでの25年間を振り返る形で進みます。
すぐに捕まり10年ほどで出所した方がよかったのか。それとも25年逃げ延びたことに意味があったのか。しかし結局、逃げ続けてもこれからも隠れて生きるしかない現実は変わらない――終わりのない自問自答に、女の心の有り様が生々しく描かれます。
女にも、殺した男に弄ばれたという事情はありました。しかし、女によって人生を狂わされた人間もいるのです。身勝手極まりない女の末路とは果たして。
冬の日本海の荒々しく陰鬱な情景と、女の閉ざされた心情が重なり合い、息苦しいほどの鬱屈へと引きずり込まれるかのようでした。
もうじき時効が来る。
海を眺めながら事件のことを振り返る一人の女。
彼女は25年前、一人の男を殺して逃亡……顔を変え、職業を転々としながら生きてきた。
そして、とある海辺の民宿で、時効を迎えようとしている。
しかし時を同じくして、二人の刑事がその地を訪れる……。
実際に起こった事件を元に、小田島匠様が犯人の女性の心を丁寧に描き切った、重厚な人間ドラマです!
殺した男は最低でした。
素直に捕まった方が、世間から情をかけてもらい、罪も軽くなったかもしれません。
しかし、彼女は25年間もの歳月を逃げ延びた。
自らの人生を損得の秤にかけることなく、誰の情も顧みず、ひたすら身を隠して生きる……この執念は一体。
そして、彼女が最後に思ったこととは――。
魂の深淵を描く、短編とは思えない素晴らしい物語!
是非ともご一読ください!!!
殺人を犯した女の心情も、この作者は見事に描き切った。弁護士の経験からだろうか⁈
殺人事件に時効があった時代、時効まであと21日というところで捕まった福田和子の逃亡事件をモチーフに書かれた短編。当時の殺人の時効は15年だった。その後25年になり、現在は撤廃された。
この作品では、時効が25年の時代。もし殺した時にすぐ捕まってれば、10年くらいで出られて、私が私として生きていけたかも知れないという女の言葉が心に残った。
福田はどんな考えで逃げ続けたのか、改めて考えさせられた。
荒波立つ日本海の情景描写も巧みだ。
美しい文章で綴られた、時効間近の女の独白。是非読んでみてください!