私の大好きな「質量」のある文章。主人公の人間の捉え方が非常に魅力的。
- ★★★ Excellent!!!
作品を読むと、作者のことが分かることがあります。
そもそもその人の書きたいことを書いているのだから、読んだら「好み」や「善悪判断」、「いいと思うこと思わないこと」ものの見方や、価値観が少し読み進めると分かります。
文章が上手い人ほどこれを伝えるのが上手だと私は思っているのですが、
実はもう一つ、文章を読んでいると伝わって来るものが存在します。
「それは実体験かどうか」です。
経験ですね。
あまりに文章が力量ないと、さすがに伝わって来ないことはありますが、何かを書いた時に「この作者さん絶対これ経験あるんだな」「これ実感籠ってる」など、現実のパワーを感じられることがあります。
現実のパワーは質量がありますので、文章にこの質量を込められる書き手は、読んでいる人にも説得力を感じさせることが多く、パワーある文章だな、と感じられます。
こちらの話を読んだ時はまだ四話、恐らく話の導入の部分に当たるくらいの部分だと思うのですが、
「美容師」という一つの職業の描き方が非常にリアルで、絶対これは少なからず自分でその職業をしていたんじゃないかと思わせる現実のパワーが文章から感じられます。
二話まで読んだ時に思わず「文章上手いな」って呟いてしまったのですが、
いわゆるこういう、専門職ですね。特別な世界に従事した方。
それを、専門的な用語や理詰めで書いて来る方っているのですが、それは逆にある意味知識をひけらかしているだけで、なんか専門のことをしていたのは伝わって来るけど、専門的なだけであんま魅力的な文章じゃないな、とか思うこともあるのですが……。
私がこちらの「美容師」の話を読んでいて面白いなと思ったのは、「美容師」としての技術というよりも、「美容師」を仕事として大半過ごして来た方の、感情。感情の部分を重視して描かれてるのがとても魅力的でした。
主人公は「もう若くはない」という冒頭の説明もありましたし、娘さんがいるとのことなので、大体四十前後といったような年頃です。「昭和」という言葉もありますし。
・自分の時代は、技術の鍛錬の為に残る残業は残業とすら認識されなかった
・令和の時代は個人の休暇や、勤務時間の明確化が重んじられる
いわゆる「根性論」が罷り通っていた時代、
この方自身も厳しい先輩について大変だったこと、
そんな「厳しい時代に生きた」実感を持ちつつも、
「わたしは令和の若者たちを尊敬している」
という言葉に、ものすごく私は実感と、同時に自分と違う時代を生きている若い人たちに、違いを実感しつつも、こんな気持ちを持ってくれてる、情の優しさみたいなものを感じたのです。
このセリフを書けるって、すごいのだ。
これは文中ではもちろん主人公の言葉の一つです。
ですが、作者が全くこういうことを考えられない人なら、生まれなかった言葉でもあるのです。
だから間違いなく作者さんの胸の中に、こういう自分とは違う時代を生きている人たちに対する違いを実感しつつも尊重する気持ちが無ければ書けないのですよね。
小説というものは、極論では、作者がどんな嫌な奴でも文章が上手ければいいのかもしれません。
しかし、人柄は非常に出るのです。
文章からにじみ出る、作者の人柄、考え方、捉え方、
私はこの主人公の物の考え方がとてもいいなぁ……! と思ったのです。
こういう感情は小説においても「続きを読みたい話だな」と思うに直結しているといっていいのではないでしょうか。
文章を読んでいると、
主人公は令和の若者たちにも伸び伸びと生きて欲しいし、新たなる武器を駆使して、更に時代と共に生きて欲しいと願いつつも、
自分の生きた時代や時間にも、ちゃんと誇りや自信を持っているのが伝わって来ていいですね。
俺もこんな時代に生きてみたかったとか、今の若い人はいいよなあ、とかそればかりではなく「厳しいこともあったけど、自分にとっては価値があった」と感じているのがいい。
時代の違いを描きながらも、双方の違いと良さを捉えられてるこのバランス感覚が、非常に魅力的です。
こちらの話は昭和生まれの憂いのようなものを描きながらも、なんか全く暗くないのですよ。明るいのです。
その明るさは、この主人公の、自分も、他人も、年齢に関わらず他人の生き方に敬意を示す人柄から来ているのだと思います。
4話の娘さんの話が出た時に、
自分と同じ職業を娘さんが目指していることを「どこか誇らしげに」感じているのもすごく素敵だなって思いました。
娘さんまだ出てきてないのに、
まだ4話しか読んでないのに。
不思議とまだ見ぬ娘さんを、このお父さんを通して「きっと素敵な娘さんなんじゃないかな」と思わせてくる。
これ紛れもなく文章力、表現力の高さが理由だと思います。
こちらの作者さんの人間の捉え方が、私はすごく魅力的だなと思いました。
しかしこの「人間の捉え方」というのは、決して文章力では誤魔化せない部分なのです。
作者が培って来たものでしか表現出来ない、そういう特別なパワーを感じました。