白川先生って、お針の先生のことだね。
いやさ、あの先生に針を打ってもらうと随分と楽になるんだよ。
それにさ、上方からお越しになったとかで、ちょっと品もよくてさぁ。
いい男なんだよ。ま、そんなもんだからさ。
またどっか具合が悪くなってくれりゃぁ、なんて、つまんない事まで浮かんじまう位さぁ。
噂によるとね。あの先生じゃなければ癒えない病ってもんがあるらしいんだよ。
どうやって手当なさってるんだろうねぇ。
近くの神主さんにきけば、白川ってお家は随分と立派な血筋なんだっていうんだよ。
そうと聞いたら、なんか大層なまじないかなんかかねぇ。
ここだけの話なんだけど、
ちょっと前にあった大火事のことだって、お上が白川先生のお力を借りたってらしいよ。
お医者様がなんで調べ物に首をつっこんだのかって?
あたしに分かる訳ないじゃないか。
そんじゃぁ、これをやるよ。
ここに詳しいことが書いてあるそうだから、読んでごらん。
あたしゃ、学がないもんだからね。後で中身をかいつまんで教えとくれな。
不可思議な呪術で人々の悩み苦しみを解消する、とくれば大層な儀式や邪悪な呪いが付き物だが、本作はそれを『治療』という形で進めていくのが大きな特徴。
確かに鍼やなにやで体が軽くなったときは邪気が抜けたよう。そんな体験があれば、妙な納得感とともに、主人公が様々な事件を解決するさまを追うことができるだろう。
一方でそんな主人公のもとに転がり込んでくる事件はどれもこれもが人間的で共感しやすい。時代劇として史実を交えてはいるものの、現代に通じる家族の問題などが軸に据えられているので読みやすさも抜群化と思う。
かっこいいけどどうにも優しさの滲む『治療』の物語。ゆったり読める素敵な一作です。
時は江戸。明和の大火を下地にしたお話です。
中心となるのは、人や物の邪気(雨)を祓うことのできる白川涼雨。小石川養生所で患者を診ています。
彼は一貫して患者のために丁寧に治療する良き心の医者であり、穏やかで優しい物腰の人物です。そんな彼が、多くを焼くことになった大火に関連した事件に関わるさまを描いたのが、本作です。
大火で焼き出された少女おなつ、養生所見廻り同心である樋口慎之介の心をその「雨供養」で救っていく白川。大火の下手人とされる真秀が登場してからは、心を抉られるような展開が待っています。
時代背景に合ったリアリティに、関わる者たちの打算。やるせなさ、深い悲しみと愛情が怒涛のように押し寄せてきます。
読後は、きっと様々な思いの余韻が胸に残ることでしょう。
ぜひ、じっくりと読んでみていただきたいお話です。
お薦めです(^^)!