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概要
戦争を知らない少年が、戦争を忘れられない老人と出会った、最後の水曜日。
十四歳の夏休み、僕は自転車のペダルを漕いで丘の上の老人ホームへ向かった。戦争体験者の話を聞くという、誰もやりたがらない宿題のために。
九十三歳の山崎さんは、南方の島をダイヤモンドに喩えた。美しくて、残酷な島。嘘をつけない兵士の話をした。みんなが死んでいく中で、幻想を持てない男だけが生き残った話。
「人生に意味はない。でも、意味を探すことには意味がある」
山崎さんはそう言って、冷めた緑茶を飲んだ。窓の外では蝉が鳴いていた。まるで世界の終わりみたいに鳴いていた。
翌朝、山崎さんは窓際の椅子で眠るように逝った。僕は何も言えなかった。ただ、蝉の声だけが昨日と同じように響いていた。
これは戦争の物語ではない。出会いと別れの物語でもない。ただ、ある夏の午後に交わされた言葉が、ガラスケースの中の昆
九十三歳の山崎さんは、南方の島をダイヤモンドに喩えた。美しくて、残酷な島。嘘をつけない兵士の話をした。みんなが死んでいく中で、幻想を持てない男だけが生き残った話。
「人生に意味はない。でも、意味を探すことには意味がある」
山崎さんはそう言って、冷めた緑茶を飲んだ。窓の外では蝉が鳴いていた。まるで世界の終わりみたいに鳴いていた。
翌朝、山崎さんは窓際の椅子で眠るように逝った。僕は何も言えなかった。ただ、蝉の声だけが昨日と同じように響いていた。
これは戦争の物語ではない。出会いと別れの物語でもない。ただ、ある夏の午後に交わされた言葉が、ガラスケースの中の昆
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