この国の来し方に思いを馳せた、市井に生きる者の眼差し

本作は八年毎に一首。
あわせて十首の短歌として、この国の経験した八十年のうちの大きな世の動きを詠んだ短歌集です。

気宇に富む大きな企図を持ちながら、その視線はあくまでも市井の者の生活感から離れない。
一個人の概観する日本の歴史の一綴り。
それが、本作です。

現時点からの過去です。近い過去ではあります。
それでも、八十年もあります。
とても一個人だけで体験できはしないでしょう。
また数多の地域の出来事を詠んでもいます。
そのために、書籍や記録映像、報道情報などの資料からの理解した事柄も多いことでしょう。

見聞きした出来事。
身近で起きた災害。
同時代を過ごした世相。
報道された大事件。

現代の情報化社会においては、すべてが自身を取り巻く環境だと言えます。
たとえ現場にいないとしても、その事柄を思うときに沸き上がる感情は本人のものなのです。

歴史は、遠い昔の物事の連なりと言うだけではありません。
私たちを取り巻く社会のあり様を教えてくれる語り手でもあるのです。

本作に接し、この国の来し方に心を傾け、行く末に思いを馳せる。 
そのひとときは、きっと大切な時間になるはずです。

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