― 静けさの奥に、かすかな希望を聴く ―

言葉にならない想いが、こんなにも心に響くなんて──
読後、ふと部屋の静けさが、いつもと少しだけ違って感じられました。

『音に、音はない』は、音のある世界で「音を閉ざす」少女・音羽の物語です。
けれどこれは、決して“静寂”の話ではありません。むしろ“誰にも届かない声”の話なのだと、読み進めるほどに思うようになりました。

音羽が抱える痛みや拒絶は、決して劇的ではありません。日々の描写は淡々としていて、大きな事件も、派手な台詞もない。けれどその分だけ、ほんの些細なまなざしや沈黙の重みが、静かに胸に沁みていきます。

彼女のもとに現れる人々もまた、完璧ではなく、それぞれの弱さや欠けを抱えています。でも、その“ゆらぎ”こそが、人と人とが近づくときに生まれる、自然で優しい揺らめきのように思えました。気づけば、ページをめくる指に力がこもっていたほどです。

物語の終わり、音羽の中に生まれた「ほんのわずかな揺らぎ」が、とても愛おしく感じられました。
心は音のように、すぐには聞こえなくても、確かにそこにある──そんなことを、ふと信じたくなりました。

拙い感想ではありますが、この物語に出会えたことに、静かに感謝を込めて。
またいつか、音羽のような心の片隅にそっと触れられるような物語に、めぐり逢えたら嬉しいです。

(*´-`) 黒宮ミカ

その他のおすすめレビュー

黒宮ミカさんの他のおすすめレビュー70