「想像しない」からこそ生まれる邪悪。これぞ現代のリアルな悪なのかも

 今作はとにかく、悪役の存在感が強烈で、色々と考えさせられることがありました。

 本作の主人公である一馬は、親しくしている綾子が何者かに付け回されているらしいことで相談を受けます。
 ストーカーか何かかと、普段からつるんでいる麗人や黒川、江平たちと共に対策を考えるが……。

 やがて、綾子がなぜトラブルに巻き込まれたのかが見えてくるようになります。
 その構図もさることながら、今回はなんと言っても「悪役」として出てくる人物が異彩を放っていました。

 これが「現代における悪のリアル」なんじゃないか。

 一馬や綾子を窮地に陥れ、裏でも様々な悪事を働く存在。
 その人物がこれまでどんな人生を送ってきて、どんな考えを持って今も悪事に手を染め続けているか。

 そのエピソードが「この社会のどこかに、今も本当にこんな奴らがゴロゴロいるんじゃないか」と思えるような鮮烈さを持っていました。

 人が悪をなす時、どれだけそのことを「悪いこと」だと認識しているだろうか?
 悪いことだとわかって覚悟を持って踏み込むか。それとも、最後の最後まで「それが本当に悪いことなのか」と答えが曖昧なままで居続けるのか。

 現代だと特殊詐欺なども横行し、人に言われるままに誰かに被害を及ぼす人間も数多くいる。でもそれが悪いことだとは「しっかりと向き合って想像する」ということをしなければわからない。
 少しでも見て見ぬ振りをしようとし、「責任」というものから逃げようとすれば、きっと一生曖昧なままで終わってしまう。

 そういう「弱さ」や「無責任さ」が時には想像を絶する醜悪さや邪悪さに通じていくこともあるかもしれない。

 そんな現代ならではの「悪」が描き出された本作。色々と考えさせられる現代性とテーマ性を持った作品です。

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