道理が捻れた世界を精緻に描く

作者様は「あなたの世界は、本当に“現実”ですか?」と問いかけます。

オムニバス形式に連なる掌編を読み進めると確信します。作中の世界は捻れている、自分のいる世界こそ現実だと。逆説的ですが、私達が生きている日常は論理が整合していることに気付かされます。

自業自得の物語とは限りません。そうであったならば悪業には罰が待っています。やり逃げやり得の掌編もあり、それらが恐怖を増します。罰が下されるかどうかも気まぐれな世界が続き、行き着く先が見えないことへの怖れが背筋を這います。得をしたからといって気が楽になる訳ではない人間心理の盲点を突きます。

作中人物が錯乱していないことは文体が精緻であることで分かります。本作の語りは精緻である必要があります。清明な精神で奇怪な世界を見つめる、そこに立ち上がる違和感たるや。

捻れた世界も筆一本で描き出せる、小説という媒体の強さを見せつけています。

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