この入れ子細工は、果たしてどこまで続いているのか?

 ゲームな設定の使い方がとても面白いです。

 「主人公」として登場するのは、RPGの勇者的なポジションにあるフェル。
 しかし、自分自身の取っている行動に疑問を持ち始める。冒険をしているつもりが、どうも自分が何者かに操作されているように感じられて。

 そうして「誘導」から脱却しようとして、別の行動に出ようと決めるのだが……。

 ここから本作の「仕掛け」が発動します。

 もしも、RPGの主人公に心があったら。知らず知らずに「意思決定」に干渉を加えられ、自分で考えて行動していると思ったことが、実は別の誰かの手で操作されているものだとしたら。

 そういう「漠然とした不安」が描き出されて行く本作。
 本作の上手いところは、その仕掛けを何重にも行って行く点です。「主人公を操作するプレイヤー」という『絶対的』に見える構図。その構図がふとした瞬間にまた別のヴィジョンへとシフトしていく。

 果たして、この構造はどこまで続いていくのか。
 ある種の哲学的な問い。「自分は創作上のキャラクターなのではないか」というもの。そういう思考実験のような感覚を現実に侵食させ、茫洋とした感覚をもたらす。

 本作のラストで出てくるイメージは、まさに「リアルとは何か」を描き出したものとなっていました。
 突き詰めれば様々な疑問や不安が存在する人生。人はそういう問いとどう折り合いをつけて生きているか。そんな生の感覚が象徴的に示されているように感じられました。