八芒星は語らない
- ★★★ Excellent!!!
港町・神戸を舞台に、阪神淡路大震災という実在の出来事を巧みに取り入れた、水と怨念が織りなす恐怖の物語。明治時代から続く因縁と現代の連続怪死事件を結びつけた構成は、読み進めるほどに引き込まれる魅力があります。
物語は、垂水区での不可解な一家殺害事件から始まります。頭部を切断された遺体、水浸しの現場、血痕一つない異様な状況。西郷警部補や鹿沼鑑識課長らが捜査に当たりますが、事件は謎に包まれたまま、さらに連鎖していきます。そこに現れるのが、謎めいた女性・藍桜と、彼女に仕える御蔵。彼らの目的は何なのか。そして事件の背後に潜む「マラク」とは何者なのか。冷静沈着な藍桜、忠実な御蔵、復讐に燃える西郷、そして北城瑞穂と蒼馬兄妹といった個性的なキャラクターたちは、それぞれの思惑と葛藤を抱えながら物語を動かしていきます。登場人物たちの心理描写も繊細で、恐怖や悲しみ、決意といった感情が鮮やかに伝わってきます。
文章表現も秀逸で、特に水にまつわる描写は生々しく、読者の想像力を刺激します。水という私たちの身近なものが持つ不気味さを極限まで引き出した文章は、読んでいて背筋が凍るような感覚をもたらします。また、北野異人館や中突堤、灘の一つ灯など、神戸の実在する場所を舞台にしていることが、物語にリアリティを宿らせています。
日本の伝統的な呪術と、スコットランドの伝承が融合した独特の世界観、八芒星の結界の秘密、そして藍桜の正体など、ファンタジー的な要素も豊かに盛り込まれています。序盤のじっとりとしたホラー描写から、中盤の謎解き、そして終盤の壮大なバトルへと、物語のテイストが変化していく構成も見事です。
読み終えた後も、物語の余韻は長く心に残ります。それは喪失と再生、因縁と救済といったテーマへの深い思索でもあります。ホラーファンタジーが好きな方はもちろん、神戸という街に思い入れがある方にもぜひ読んでいただきたい作品です。水の底に潜むものが、きっとあなたの心にも長く残ることでしょう。