“外道者”の世界へ引きずり込まれる――歌舞伎町発・現代ダーク異能譚。

詩的な定義文から始まり、舞台は新宿・歌舞伎町へ。
「人より遠しもの」という抽象から、ネオンの湿度と生臭い現実へ落とす導入の落差が強烈で、冒頭から一気に作品世界へ引きずり込まれました。

序盤で印象的なのは、主人公の会話が「中身のない会話」として成立している点です。悩みを聞いて日銭を稼ぐために“理解している風”を装う――この生活のリアリティがあるからこそ、能力の発動をきっかけに日常が崩れる瞬間がより痛く刺さります。
未来視の設定も「1時間を30秒で見る」「自分の未来は見られない」という制限が綺麗で、強さと脆さが同時に立っていました。

羽二重リン登場以降は、物語が一気に“外側”へ転落します。
サディスティックな無邪気さと理知が同居した彼女は、怖いのに目が離せない存在感。銃撃からの復帰、店員(非人間)の処理まで、倫理を置き去りにして状況を更新していくテンポが容赦なく、読者も主人公も逃げ場を失っていく感覚が鮮烈でした。
「彼氏になってよ」という一見突拍子もない要求も、笑いより先に“契約”としての圧が来るのが上手い。

棺姫パートで提示される「静的現実」も、ただの講釈ではなく“実演”で叩き込んでくるのが強いです。天井の水槽が消える場面は、世界観ギミックを体験として認識させる演出で、ぞくりとしました。
さらにアダム・スミス周りでは、路上喫煙やガム吐きといった日常的な倫理を「罪」として首を飛ばす不気味さが際立ち、敵側の思想とスケールが一段上がった印象。バチカン匂わせも含め、今後の広がりに期待が膨らみます。

総じて本作は、軽口で乗り切るタイプの異能譚ではなく、「人のままではいられない」変質の圧で読ませる作品だと感じました。
怖いのに先が気になる。続きが楽しみです。

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