概要
ホテルマンとして働いていた青年の磯辺は、ライターの秋山千鶴から『ピシナム』の取材を持ちかけられていた。磯辺は取材を経たのちに、かつてホテルを利用していた女子高校生「R」との出来事を思い返す。
当時、ホテルを訪れる度に風貌の違う男を連れまわすRを、磯辺は次第に気に掛けるようになっていった。2人は顔を合わせることはなく、声を掛け合うこともなく、フロントと部屋を繋ぐ気送管ポストで手紙だけを送り合う。
そして磯辺は文通のなかでRの抱える秘密と孤独に気づき始める……。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!『あの日』のことを忘れないために。圧倒的な文章力で紡がれるふたりの物語
Web小説投稿サイトで純文学を書くなら、この作品は絶対読んだ方がいい――そんな風におすすめされて読みました。
物語は或る廃業したホテルで働いていた男性のインタビューから始まります。
彼の脳裡をよぎるのは、毎回金魚の泳ぐ部屋を指定してきた女子高生『R』の存在でした。
顔も名前も知らないふたりの男女が気送管ポストでメッセージを送り合う――そこから紡ぎ出される『R』の過去は、日本人であれば忘れられない『あの日』とつながっていました。
明るく楽しく希望が満ちあふれている、そんな小説では決してありません。
ですが、圧倒的な文章力で紡がれるそれは確かな熱を持ちあなたの心に刺さるでしょう。
なお、本作…続きを読む - ★★★ Excellent!!!これは分断の物語。
3.11の被災者ではないが、当時、南東北で震度6弱の揺れを経験した者です。あの、永遠に続くかと思われた強烈な揺れ。今でも、緊急地震速報の警報音と、不穏な地響き、立っていられないほどの揺れ、直後の吹雪は、昨日のことのように鮮烈に覚えています。
巨大な津波で壊滅した海沿いもさることながら、原発の水蒸気爆発の瞬間まで。世界が終わるのだと感じていた日々でした。
わたし自身の感受性が強すぎて、震災から何年が経っても、当時の津波のニュース、復興前の土台しか残らない更地の様子などは、思い出すだに苦しくなります。
この大災害だけではなく、人と人との間には、どうしようもない分断が横たわっています。それは、わた…続きを読む - ★★★ Excellent!!!覆すことのできない断絶と、それでも残る小さな希望
読み終えたとき、Web小説という言葉から連想されるものとあまりに異なる独創性と文学性に飲まれ、ただただ圧倒されるだけだった。無言で★3を付けたものの、なぜ圧倒されたのか言語化することもできなかった。
一晩経って改めて考え、私なりに解釈した結論は、この作品は震災についての小説ではないということだ。
もちろん、震災で大切な人を失った人々がこの日本で私たちの隣人として生きていることは、忘れてはならない事実ではある。それを思い出させてくれるのも、この小説の美点ではある。しかしここで描かれているのは、あの災害だけに限定されない、覆すことのできない人と人との断絶である。
乱暴に例えるなら、米澤穂…続きを読む