これは分断の物語。

3.11の被災者ではないが、当時、南東北で震度6弱の揺れを経験した者です。あの、永遠に続くかと思われた強烈な揺れ。今でも、緊急地震速報の警報音と、不穏な地響き、立っていられないほどの揺れ、直後の吹雪は、昨日のことのように鮮烈に覚えています。
巨大な津波で壊滅した海沿いもさることながら、原発の水蒸気爆発の瞬間まで。世界が終わるのだと感じていた日々でした。
わたし自身の感受性が強すぎて、震災から何年が経っても、当時の津波のニュース、復興前の土台しか残らない更地の様子などは、思い出すだに苦しくなります。
この大災害だけではなく、人と人との間には、どうしようもない分断が横たわっています。それは、わたしとあなたがまったく別々の他人で、個人であること。ただそれだけの理由なのです。
そのどうしようもない分断を埋めるために、人はコミュニケーションするのでしょう。言語。非言語。接触。非接触。決して埋まることのない溝なのに、それでも繋がりたいと、理解したいと望むことこそ、人間の唯一の希望なのだと、この作品は語るようでした。
とても素晴らしい物語ですが、唯一の惜しむらくは、ルビが反映されていなかったり、細かな誤字脱字が見受けられたことでしょうか。
それでも、それはとても些末なことですので、物語の本質が変わるわけではありません。
3.11以降、なんとなく語られるようになった『絆』というものを、作者は痛みをもって紡いでいるのです。

その他のおすすめレビュー

砂乃らくださんの他のおすすめレビュー1