【案内人・葛城二華より】
第9話をお届けいたします。
第1話と第5話で、朝と夕方の六花円舞曲をご覧いただきました。六つの花が、朝には騒がしく、夕方には甘く、食卓と玄関を埋め尽くす光景を、覚えていらっしゃいますか。
あの家には、いくつかの「ルール」がございます。
四女の美空さんが主導し、全員の合意を重ねながら、三年をかけて少しずつ形になってきたもの。起床の時刻、お風呂の時間割、冷蔵庫の棚の区分け——誰も困らないように、誰も寂しくないように、細やかに設計された日々の約束事です。
その中で、たった一つだけ、どうしても合意に至らなかった領域がございます。
席順でございます。
六人の姉妹が、誰一人として「隣」を譲りませんでした。曜日ごとのローテーション、五十音順、くじ引き——あらゆる提案が、全員一致で否決されました。結果、その領域だけがルール化されないまま、毎朝の争奪戦として残っているのです。
そして、もう一つ。
六時三十分。これが、朝霧家の分水嶺でございます。それ以前は、あの方が一人でコーヒーを淹れる、静かな時間。この時刻まで、誰もダイニングに足を踏み入れません。——ただし、六時半を一秒でも過ぎれば、そこから先は、何があっても不思議ではございません。
……個人的な所感を申し上げてもよろしいでしょうか。
深夜二時まで草案を練り上げる方。気配を消して誰より先に座ってしまう方。三階から弾丸のように滑り込んでくる方。正面の席を選んで「ここが一番よく見える」と言い切る方。そして、ここ二週間ずっと隣を取れていないことを、ついに事実ベースで告白してしまう方——。
そのすべてを、キッチンで次女の方が、配膳の順番という名の主導権を静かに握りながら見守っていらっしゃいます。
ルール化できなかったものにこそ、あの家の本音が最も濃く滲み出るのだと、私は考えております。
六時三十分、その一秒の攻防を、どうぞ見届けてくださいませ。
※本作のイラストはAIを用いて制作していますが、キャラクター・服装の設定および最終選定は作者によるものです。
