この物語は、「怖い出来事」を書きたくて始めた話ではありません。
むしろ書きたかったのは、誰にも見られず、誰にも返事をもらえないまま続いていく“独り言”が、どこまで現実を侵食できるのか、という一点でした。
日記は本来、安全なものです。
今日あったこと、感じたこと、どうでもいい愚痴。
誰にも読まれない前提だからこそ、正直で、無防備で、優しい。
だからこそ――それが最後に残った唯一の「声」だった場合、一気にホラーへと反転します。
前半の何気ない天気の話や自分を褒めてほしい独り言は、すべて「まだ世界と繋がっている証拠」でした。
しかし返事が返ってこない日常が続くにつれ、日記は記録ではなく、助けを求める行為へと変わっていきます。
そして最後に残るのは、事実ではなく「書き手が信じたかった現実」だけです。
事故物件になった理由は、決して派手な事件ではありません。
鍵を閉めなかったこと、気づかなかったこと、帰ってこなかったこと。
どれも「誰か一人が少しだけ違う行動をしていれば防げたかもしれない」程度のズレです。
この物語の怖さがそこにあるとしたら、それは幽霊ではなく、日常の隙間そのものなのだと思います。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
もし読み返したとき、最初の数行が少しだけ違って見えたなら――
それが、この日記が残した“後味”です。