――選ばなかった物語について
本作は、「恋愛」を描いた物語ではありません。
正確に言えば、恋愛を“簡単にしたがる社会”についての物語です。
MBTIや診断文化は、本来とても優しいものです。
自分を知るための言葉であり、他人を理解するための補助線でもある。
それがなければ救われなかった人も、確実に存在します。
だからこの物語では、
診断そのものを「悪」として描くことはしませんでした。
問題にしたかったのは、
診断に“選択の責任”まで預けてしまうことです。
ユメは、弱い人間です。
占いや診断に救われてきたからこそ、
そこに依存してしまった。
キメルは、努力する人間です。
好きな人に選ばれるために、自分を変え、
世界そのものを作り変えようとした。
サトルは、正直な人間です。
不正を嫌い、正しさを信じ、
だからこそ暴走した。
誰も、最初から悪くありません。
この三人は、
「間違った善意」だけで崩れていきます。
構造として、この物語は
最初から「破綻」が約束されています。
なぜなら、
LOVEタイプ診断が完璧すぎるからです。
相性100%。
最適解。
間違えない恋。
それは、
人間が本来持つはずの
「迷う」「疑う」「壊す」「後悔する」という要素を
すべて削ぎ落としてしまう。
恋が“成功”になった瞬間、
失敗はすべて、
誰かのせいになる。
物語の後半で、
誰も明確に救われない理由も、そこにあります。
キメルは罰せられきらない。
サトルは裁かれきらない。
ユメも、完全には癒えない。
現実の選択は、
たいていそうだからです。
事故として処理され、
行方不明のまま終わり、
生き残った人だけが
「続き」を生きる。
最後に、「相性」という言葉が
世界から消えた理由。
それは、人々が賢くなったからではありません。
優しくなったからでもありません。
重さを知ってしまったからです。
誰かの人生を左右する言葉を、
軽く使えなくなった。
それだけの話です。
もしこの物語を読み終えたあと、
誰かを好きになるときに
一瞬だけ立ち止まってくれたなら。
診断を見る前に、
その人の顔を思い出してくれたなら。
この物語は、
役目を果たしたと思います。
答えのない世界で、
それでも誰かを選ぶこと。
それは、
怖くて、面倒で、
でもたしかに、人間らしい行為だからです。
最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。
この物語が、
あなたの選択を
少しだけ重く、
少しだけ誠実にしてくれたなら、
それ以上の結末はありません。