僕の前に跪いた白い衣姿の美少女は、下腹部に淫紋を入れていた。
「ようこそお越しくださいました勇者さま。どうかこの世界をお救いくださいませ」
「………え?」
前略、ベッドから落ちたと思ったら神殿のような場所にいました。
パジャマ姿の僕は呆然と彼女を見返して、
「現在、この世界は魔物によって危機に瀕しております。それを救うには跋扈する魔物を駆除し、元凶である魔王を討伐しなければなりません」
美少女ほか、周りにいる神官? たちも誰も僕の格好を笑ったりせず。
むしろ真面目な顔をしていて。
「魔王討伐を成せるのは最高の魔力量を持つ男性──すなわち、あなたさまをおいて他におりません」
「ちょ、ちょっと待ってください。魔力って、なにか人違いじゃ」
「いいえ、そのようなことはありません」
少女はきっぱりと答えて首を振った。
動いた拍子に銀色の長い髪がはらりと揺れる。
翠色の澄んだ目に胸がどきっとした。
どう見ても日本人じゃないのに、流暢な日本語。
これはきっと、いわゆる異世界召喚というやつで。
僕はこれからすごい力を目覚めさせて冒険の旅に、
「そのお歳で射精回数一回──さぞかしお辛かったことでしょうが、その苦労こそがあなた様のお力の源」
「はい?」
なんかいきなりセクハラされた気がする。
「? 生涯の経験回数一回、で、お間違えございませんよね?」
「もしかして頭の上に数字とか出てるんですか?」
「いえ、召喚が叶う範囲の世界から最も射精回数の少ない方を召喚いたしましたので」
「あ、さっきのは冗談じゃないんですね」
もしかして異世界の中でもエロい異世界に召喚されてしまったのか。
「この世界では、蓄積された性欲がそのままその人物の魔力量となります」
「ちょっと予想の斜め上を行かれたんですが」
「よって、日々の魔力生産量では男性が勝り、生涯にわたって魔力として使用できる魔力の量では女性が勝ります」
「そのまま説明が続いた!? ……って、生産量が多いのに男のほうが魔力量は少ないんですか?」
「はい。男性は頻繁に自慰を行いますので」
「今なんて言いました?」
少女はきょとんと目を瞬いて、
「男性は女性に比べてオナニーの頻度も、欲求解消の度合いも大きいと」
「言い直して欲しかったんじゃないんですけど……でも、よくわかりました」
彼女はおそらく嘘を言っていない。
僕はパジャマに包まれた自分の下半身を見た。
「勇者さま。よろしければ、拝見させていただけないでしょうか?」
「……はい。こんなもので良ければ」
いったいなにをしているんだろうと思いつつ、僕はパジャマの下をゆっくりと下ろした。
下着も一緒にずり下ろせば、露出するのは生の下半身。
綺麗に毛が剃られた僕の股間には──輪っかと蓋のようなパーツからなるアクセサリーが取り付けられている。
おお、と、周りの神官が感嘆。ってなにに感動してるんだ。
「あのように小さな貞操帯をその歳で」
「なんと素晴らしい」
やっぱり馬鹿にされてるんじゃないかと思いつつ服を戻すと、少女が祈るように両手を組んだ。
「ああ、神よ。感謝いたします」
「あの、これはそんな良いものじゃないんです。ただ、家族から射精を管理されていただけで」
僕の母親、そして姉たちは極度の潔癖症かつ男性嫌いだ。
原因は僕が物心つくまえに亡くなった父親にあるらしい。
男なんて汚らわしいと、僕はオナニーどころか異性に興味を持つことさえ厳しく禁止されてきた。
貞操帯をつけられたのは一度、言いつけを破って射精をしてしまってからだ。
鍵は母たちが管理しているので、以来、僕は二日に一回、お風呂のために外してもらってついでに剃毛を受ける時以外、まともに自分のペニスを見たことがない。
こんなの男失格だ。
なのに、
「それで良いのです。元の世界ではただ辛く苦しいだけだったかもしれませんが、この世界ではそれは最強の力になります」
少女は微笑んで下腹部に手を当てる。
そこには、衣から透けるようにしてほんのりと輝く淫紋。
「これは絶頂禁止の紋です。これがあればその貞操帯よりもずっと明確に射精を禁じることができます」
「やっぱりこの世界って狂ってるんじゃ」
「あなたさまの常識ではそうだったかもしれません。ですが、考えてみてくださいませ」
持ち上げられた手にぽう、と、光が生まれる。
「わたしは解錠の魔法を心得ております。それを用いれば貞操帯の鍵を開けることができます」
「あ……っ!」
「加えて、これと同じ紋を受け入れていただければお好きなだけ快楽を貪っていただけます」
「え、いいんですか?」
「はい。紋がある限り絶対に、絶頂することはできませんから」
僕はごくり、と、唾を飲み込んだ。
気持ちよくなれるのに射精はできない、なんて悪魔のような条件だけど。
今、僕は十四歳──中学二年生。
親元を離れられるのはまだ先の話だし、離れられるようになっても鍵を外してもらえるとは限らない。
もし完全に自由になっても、ずっと使っていなかったこれがちゃんと機能するかはわからない。
だったら、
「もちろん、勇者さまのお相手もご用意いたします」
「相手?」
こくん、と、頷いた少女はほんのりと頬を染め、
「よろしければ、国一番の魔力の持ち主にしてこの神殿の聖女──わたし、ブランシュがあらゆる身の回りのお世話をさせていただきます」
「っ」
つい、僕は彼女──ブランシュを上から下まで眺めてしまった。
今まで女の子にえっちな気持ちになることさえ禁止されていたんだから、それくらいは許して欲しい。
しかも、こんな、可愛い子なんて。
ほう、と、息を吐いたブランシュは「もちろん」と口にして、
「気が進まないということであれば、残念ですけれど、元の世界に送り返させていただきます」
「やります」
気づいたら、僕は二つ返事で了承していた。
「ああ」
両手を組み合わせ、ぱあっと笑顔を咲かせるブランシュ。
神官たちからも歓声が上がって、
「ありがとうございます! これできっと、世界は救われます!」
喜ぶ彼女たちを見て、僕もなんだかいい気分になった。
魔王退治なんて絶対大変だけど、今までの暮らしよりはずっといい。
だって、こんな可愛い女の子と一緒に旅ができるんだから。
──そして、僕の股間を封じていた貞操帯はあっさりと外された。
代わりに僕の下腹部に浮かび上がったのは、ブランシュとお揃いの、どこかえっちな紋。
相変わらず射精は禁止らしいけど、今までよりはずっと自由だ。
「勇者さま。お名前を教えていただけますか?」
「あ……っ。僕は琉伽です。白瀬琉伽」
「ルカさまですね。では、ルカさま。これから末永く、どうぞよろしくお願いいたします」
とろけるように甘い声で囁かれた僕は、ああ、僕が射精を管理されてきたのはこの子に出会うためだったんだ……と本気で思った。
この子のためにも頑張ろう、と、そう決意を固めた僕だったけど。
この時、僕はあることに気づいていなかった。
ただ単に射精管理されるのと、可愛い女の子から「えっちな寸止め」をされ続けるのとでは苦しさが天と地ほどの差があるということに。
それから、ブランシュが「この国一番の魔力量の持ち主」と名乗ったこと。
彼女の説明通りなら、たくさんの魔力を持つには禁欲だけじゃ足りない、たくさんの性欲を持ったうえでそれを我慢しないといけない。
つまり、ブランシュは──この国で一番えっちな女の子だったのだ。
そんな子が僕という格好の獲物、もとい相手を手に入れたどうなるか。
僕はまだ、気づいていなかったのだ。