静かに始まった関係のこと
彼と彼女の恋愛を俯瞰してみた。
彼は当時63歳で年齢差で双方既婚者、常識的には深い恋に
落ちることはない構図だった。
印刷物の冊子作成。あの頃は、まだWordで文章をつくり、印刷屋に依頼するスタイルだった。
実務担当の彼女にその方法を変えて、やって貰わなければならないということが、彼の彼女との大きな接点だった。
編集作業は、InDesignを本格的に使うほどでもなく、数ページの冊子。
元々、彼は自己流だが、若い頃からIllustratorを使っていたから、そこから入った。
編集作業をパソコンでやることに苦手、敬遠していた彼女にどう教えるかが彼の大きな課題だった。まさに手とり足取りの感じで、実務担当の彼女との業務連絡のやり取りだった。
仕事時間も終わっても、締切原稿が来ているか?
あそこの囲み記事はどうするか?
あそこの書き方、編集はこうじゃない?
「これのやり方、分からないんだけど、どうやるの?」
こんなことから、時間外、帰宅してから
LINEでも文字やり取りが頻繁になった。
そして、ふたりでこれまでの編集を大きく変えたスタイルになった。
ほんの少しだけ小さなマスコミにも、この変化がいくつか報道された。
その頃になると彼女も
「TVのCMのデザインおもしろいと思うんだけど、あんな感じどう?」と
彼に言い出すようになっていた。
全体のイメージ構成は彼女の発想で、それを仕上げるのが私の発想のような関係ができていた。
2人で1つの価値のあるものを作り上げるそんな気持ちがしていた。
この関係は二年近く続いた。
最初の夜の業務連絡は、まだ、完全に恋に入っていなかったが、
恋心の芽生えを育んでいた初動だったんだろう。
ある時、「あのLINEでやられたよね・・・」と彼女。
当初は、うざいと思っていたLINEやり取りが、徐々に彼女の気持ちを
変えていたこと、また彼も同じように気持が深まっていたのである。
二人の恋のはじまりは、
編集作業を通して、互いの人格を知っていく過程だった。
ただ好きという若い恋人同士の劇的な季節のような始まりではなく、
仕事の中で、静かに育っていった関係だった。