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AI、動物、マルチモーダル


 AIの苦手とするものがある。それは意味の解釈である。
「小説書けてるのにそんなことある?」と思われるかもしれないが、AIはそのスペックを模倣に全振りしているために、理解に到達していない。

 AIはお金持ちになると思うし、お金持ち=勝利となるこの世間で、本気で勝ちを狙いたかったら活用しない手はないと思っているが、それが豊かな人生を担保するかは分からない。
 それは嫉妬や「みんな仲良しを目指そう」的なものではなく、この「豊かさ」には経験量が必ず関係してくるからなのだ。
 最短ルートで勝つことはできても、負け方が分からない。そもそも網羅するだけなら、それこそAIに頼めばいいのだ。



 AIは動物的でもある。人間の叡智の極みが動物的とはどういうことかと思うが、動物にとってはその時の環境がすべてなのだ。檻の中で生まれたのなら、檻が彼らにとってのすべてである。その中で自分の役割を満たすだけだ。その考え方はAIにも通じている。

 それに対して人間は、そんな彼らに比べればかなりか弱い。赤ん坊が泣くのは、当然本能的なものもあるが、そもそも自分の存在すらあやふやだからだ。役割も意味も、当然世界も分からない。
 だからこそ危険を顧みずに動き回るし、泣く。結果、親を困らせることもあるが、そうでなければ自分を確立できないのだ。この「赤ん坊」の期間は、成人まで続く。これは他の動物に比べて破格の長さである。

 人間は手がかかる。対して、AIは手がかからない。
 手がかからない上に、速やかに環境や役割に則して動けるのだから、それは便利だ。

 供給側の事情を考えずに需要に応えられるのだから、現代においてこれほど都合の良いことはない。

 だったら人間は無駄の多い、AIの下位互換かと言われるとそんなことは勿論なく、むしろ、AIが実現できたのは、人間の表層部分でしかない。



 AIは意味の解釈が苦手だと先ほど述べたが、その理由は簡単で、「意味」はどこまでもアナログだからだ。
 アナログとは「連続を連続と捉える」ということだ。分かりやすくするなら、その一点を切り取った時、必ず端数が出るものと考えればいい。
 アナログとデジタルの違いはよく温度計で例えられる。アナログ式は温度が赤い線で表示される。目盛りはあるので大まかには掴めるが、本当の気温というのは決して明らかにならない。

 人間は長い揺り籠生活の中で「意味」を自分で構築する。つまり、環境や世界はその人の中にある。たとえば「結婚」という言葉は、ある人にとってはポジディブだが、ある人にとってはネガティブなものになる。それにつられて多くの単語の意味合いが変わる。これが爆発的な多様性を生むのは言うまでもない。

 人間の持つ可能性……あるいは恐ろしさ……はそこにある。 
 脳が持つ創造性、IQだけが人間の強さではない。それも確かに再現不可と言われるほどの高いコストパフォーマンスではあるが、
 それと同等以上の要素が、膨大な環境の情報から意味を取り込み、それぞれの端数を調整(それは概算する場合もあれば、端数ごと取り込むこともある)し、自分に定義する能力。そして、その定義をあらゆる外的活動に反映させる能力だ。
 それは「超認識」といってもよい。認識を超えてくるのだ。アナログをデジタルとして取り込むのが機械(AI)ならば、アナログを別のアナログにして取り込むのが人間なのだ。

 そうでなければ本の冊数は、こんなに増えなかっただろう。



 聞こえの良い話ばかり挙げたが、この性質はパンドラの箱でもある。
 同じ物事を全く同じように受け取れないが故に、人は道を違えるし、争うことになる。これはヒトという種の生業であるため、先天的に逸脱した意味付けをする者も現れる。
     
「みんな一緒に幸福に暮らす」という理想郷が決して実現しないのも、この性質によるものだ。
 そもそも幸福の定義が人によってバラバラなのだから。

 AIが本質的に人間を理解し、それと同等に動くことはなかなか苦しいだろう。難しいのもあるが、正直割に合わないと思う。
 人間は種としてかなり割に合わないことをしている。それが実を結んで今の繁栄がある(他の種の繁栄に比べればまだまだ著しく短い)のだから、世界というのは分からないものだ。

 一番最初に戻るが、仮に資本主義の中で争った結果が生死につながるなら、AIは人間の天敵となるだろうが、そうでない分野においてはまだまだ足りないのが実情だ。

 心のないAIに勝ち負けを求めるのは不毛の極みだが、仮に「AIに勝ちたい」と思うなら、様々な場所で経験を積んで、あらゆる欲求を溜め込んでおくといい。
 きっと、それは再現されない。端数まみれの情報は、AIと相性が良くないから。

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