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第三十一回【世界観設定】詠唱(後編)「コピペではありません、伝統です」

読者の皆様、作者の皆様、ごきげんよう!
『自由のアリア』トップオタ兼作者のカラノニジです!

今回は魔法の〈詠唱〉について、後編です!!

前回、詠唱はイメージを固めるためのもので、本人の中で結び付いていれば、何と唱えてもいいという話をしました。

〈ウォーターボール〉と唱えて火球を出してもいい。
よくはない気がしますが、使えるかどうかで言えば使える。

では、何と唱えてもいいのに、どうして決まった詠唱文があるのでしょうか?

全員がその場のノリで、自作のポエムを叫んでいてもよさそうなものです。

いやぁ……詠唱ってスゴくセンスを要求されるんですよね……。
小難しいく長ったらしい詠唱をそれっぽく、かっこよくオサレ、そして読者に寒く感じさせない。
この絶妙なバランス。常人には無理ですぜ!

戦場が黒歴史ノートの発表会になるの地獄でしょ……。
争いは悲しみしか生まないってはっきりわかりますね。
倒した相手の詠唱を覚えて帰らず、忘れてやってくれ……。

……というのはさておき。

ここで関わってくるのが、魔法を『人に教える』ということです。
例えば、魔法を使える人に、やり方を聞いたとしましょう。


「先生、どうやったら火球を出せるんですか?」


「こう、グッとやって、バーンだ」


「なるほど、分からん」


先生の頭の中では、それで全部つながっているのかもしれません。
ですが、教わる側には、グッで何をしているのかも、バーンまでに何があったのかも分かりません。

料理のレシピに「いい感じに炒める」と書かれている時の気持ちです。
その「いい感じ」が分からないからレシピを見てるんだよ!
一つまみって誰基準だ!適量って何だ?ふざけやがってこの言葉ァーー!!


はぁ……はぁ……。
自分ではできることでも、他人に同じことをしてもらうとなると、途端に説明が必要になります。

どんな炎を生み出すのか。
どういう形にまとめるのか。
どこへ飛ばして、何を起こすのか。

前回お話しした、完全詠唱で言葉にしている内容ですね。
これを教わる側も理解して、自分の頭の中で組み立てられるようにする。

先生の脳内イメージを、そのまま弟子に送信できれば楽なのですが。

だから、言葉にして伝える。
そして魔法が学術的に受け継がれる中で、その魔法を使うための詠唱文も、一緒に引き継がれてきたのです。

魔法名だけ覚えて「はい、あとはイメージしてね!」と放り出されるより、何をどう思い描くかの説明もあった方が、教わる側は助かります。

〈ファイアボール〉という名前と、炎を形作るための詠唱。
唱えながら、教わった現象を頭の中に描いていく。
そうして身に付けた人が、今度は次の人に教える。

この時、わざわざ全部を自分のオリジナルに作り直す必要はありません。

毎世代、魔法名から考え直していたら大変です。
何代目かで〈ウォーターボール〉と言い始める奴が出ます。


「先生、ウォーターって水ですよね?」


「ここでは火をイメージしてください」


「水……ですよね?」


はい、伝承は途絶え、〈ウォーターボール〉(ファイアボール)の使い手はいずれいなくなります。
自分一人で使う分には自由でも、人に教える時には、その人にも分かる共通のイメージであってほしい。
使い方と一緒に言葉も引き継ぐのには、そういう理由があります。

「先生、それ、先生の先生と同じ詠唱ですよね?」

そうです。
コピペではありません、伝統です。

さて、そうすると、今度は別の話が出てきます。
同じ魔法を使っているのに、詠唱文が違う人がいたら?

「異端者だ!○せ!」

お待ちになって!宗教戦争を始めないでください。
どちらも火球が出ているなら、まずはそれを認めてあげて。
同じ現象を思い描くための説明が、一通りとは限りません。
教わってきた宗派や系統によって、引き継いでいる詠唱文が違っていてもおかしくないわけです。

そして、違っているからこそ、逆に〈共通している部分〉が気になってきます。

もし、二つの宗派で使われている詠唱文に、よく似た言い回しがあったら?
別の魔法なのに、ある一節だけが共通していたら?

それは、もともと近い体系から分かれた名残かもしれません。
ある魔法をもとに、別の魔法が開発されていった痕跡かもしれません。
あるいは収斂的にイメージと文言が似通ってきたんですかね。

もちろん、似ている一節を見つけただけで、すべてが分かるわけではありませんが。
古い詠唱文や、ほかの魔法の文言と照らし合わせていけば、魔法がどう受け継がれてきたのかを辿れるかもしれない。

格好いいから唱えていた一節に、知らない御先祖様の家系図が詰まっている可能性があるんですね。
こうなると、詠唱を聞いただけで反応する人もいそうです。

「あっ、今の一節!!」

イントロクイズかよ。
まだ最後の魔法名まで言ってないでしょうが。

「この言い回し、あちらの宗派の古い詠唱にもあるんですよ!ただ、こっちではその次の部分が変わっていて、それが何を意味するかというと――」

オタク特有の早口。
前回、早口だけでは最強の魔法使いにはなれない、という話をしたのですが。
そういう意味では強いのかも……?
解説している間にも火球は飛んできますが。

さて、ここで前編の最初の疑問に戻ります。
魔物は、どうして詠唱なしで魔法を使えるのでしょうか?
人間は、自分のイメージを言葉で補強して教わったり、受け継いだりもする。

では魔物は、どこで教わったのか。
魔物向けの魔法教室に通ったのでしょうか。

「初心者歓迎!火球初級編!」

魔法を使う魔物たちは、自分が引き起こす現象のイメージを、本能的に持っています。
言葉で一つずつ説明しなくても、何を起こすのかが、はっきりしている。
だから、詠唱を挟まずに魔法を使えるのです。

人間の言葉で魔法名を言えなくても、それは魔法を使えない理由にはなりません。
必要なのは、言葉そのものではなく、起こす現象のイメージでしたね。

では、そんな魔物に使い方を教えてもらえれば、人間も楽ができるのでは?


「どうやって魔法を使ってるんですか?」


「グルルル……」


ですよね。
魔法を使う魔物は生まれてから生物の機能として組み込まれているのです。
息をするように、立って歩くように。
だから魔物は自分の種として持つ固有の魔法は使える。逆に全く違う魔法は教わることはできない。
※見て学ぶ高知能な魔物は除きます。

人と魔物の強みの違いですね。
できることと、教えられることは別なんですね。
人間が言葉にして残してきたのは、その「どうやって」の部分です。
誰かの頭の中にあったイメージを、別の誰かにも扱えるようにする。
そうして受け継がれた詠唱には、魔法の使い方と一緒に、教えてきた人たちの足跡も残っているのかもしれません。

長くて格好いいポエムだと思っていたら、なかなか捨てられない説明書でもあった。

説明書は読まない派の皆様も、ちょっと読んでみてください。
できれば声に出して。なにか面白い発見があるのかもしれませんよ。しらんけど。

それでは皆様、引き続き『自由のアリア』をよろしくお願いいたします!

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