モキュメンタリーとは、英語の「Mock(偽物・疑似)」と「Documentary(ドキュメンタリー)」を組み合わせた造語で、フィクションの出来事をあたかも事実のように描く手法だ。ちなみにノンアルコールカクテルの別名「モクテル」もこの「Mock」が由来である。
そしてこのモキュメンタリーととても相性の良いジャンルがホラー小説だ。昔から「実話怪談」といったジャンルもあり、真実味のある語り口で、現実と地続きで起こる恐怖体験を届けるスタイルは大変人気を博してきた。さらに、昨年映画化もされた『近畿地方のある場所について』が投稿されて以来、カクヨムでは数々の魅力的なモキュメンタリーホラーが登場している。
そこで今回は、そうした中から選び抜かれた4つのモキュメンタリー作品を紹介していきたい。架空の住所を扱ったものから、見る人によって内容が変わる幻の最終回、プロデビューした作家の創作論、さらにはミステリー形式の作品まで、モキュメンタリーといってもその内容は千差万別だ。この特集を通じて、モキュメンタリーという題材が秘める奥深さ、そして可能性をぜひ実感してほしい。
番地まで詳しく書かれていて、いかにも実在しそうな住所がタイトルになっているが、こんな地名は存在しない。それにもかかわらず、インターネット上にはこの住所に関する不自然な噂があちこちで囁かれている……そんな謎の住所の目撃情報を集めたモキュメンタリーホラーが本作品だ。
匿名掲示板のログや、女性週刊誌の記事、テレビの速報テロップ、ラジオに投稿されたリスナーからのお便りなど、様々な形でこの住所が話題に挙がるのだが、どの話題でも死者や行方不明者が出たり、あるいは不審者が現れたりして読む者の不安を掻き立てていく。このタイプの異なる目撃情報の一つ一つが実に生々しくて、これだけでも充分読み応えあり。
そして本作では、小林という人物がこれらの情報を集めているのだが、彼はただ情報を集めるだけで満足せず、実際に三重県を訪れて、この架空の住所に秘められた真実に徐々に近づいていく。つまり本作はモキュメンタリーホラーであると同時に、一人の人物が怪奇現象の正体に迫るミステリー小説でもあるのだ。とある住所が出てくる以外には、何の関連性も見当たらない断片的な目撃情報が、一つの流れに収束していく様子が素晴らしい。
「不条理なものは真相がわからない方が恐怖感が高まる」という人もいれば、「ちゃんと謎を解き明かしてくれないとモヤモヤした気持ちになる」という人もいるだろうが、後者のタイプの人にはぜひ本作をオススメしたい。
(じわりと恐怖が染み込んでくるモキュメンタリー4選/文=柿崎憲)
人によって記憶している内容がバラバラだという、あるテレビアニメの幻の最終回。いかにも都市伝説にありそうな内容だが、本作ではその真相を調査しようとした人物が、複数の人々にインタビューをしていく構成になっている。
昔のテレビ番組の話題ということもあり、取材を受ける人たちは皆軽いノリでそれぞれが見た最終回の内容を語っていくのだが、口調とは裏腹に彼らが語る最終回の内容がなかなか不穏で、その落差が独特の不気味さを醸し出している。
開始当初は順調に取材が進み、それぞれの話からある共通点が浮かび上がっていくのだが、ある取材をきっかけに調査は突如思わぬ方向に突き進む。この一気に物語のギアを上げていくドライブ感がたまらない。
一気にスピードを上げた後、それまでとは全く異なるテンションで書かれる最終話は、悪意と呪いに満ちた内容で、実にいい感じの読後感を読者に与えてくれる。
短いながらもモキュメンタリーホラーの美味しい部分をきっちりまとめた作品で、モキュメンタリー好きな人にはもちろん、このジャンルに馴染みがない初心者にもオススメできる作品だ。
(じわりと恐怖が染み込んでくるモキュメンタリー4選/文=柿崎憲)
モキュメンタリーという手法は、ホラーのジャンルで採用されることが多いのですが、実はミステリージャンルとも相性が良いと思うんですよ。というのもミステリーを犯人当てのゲームとして捉えた場合、推理小説が持つ物語的要素がノイズに感じられるケースもあるじゃないですか。しかし、モキュメンタリー形式を採用することで、登場人物の心情描写を最小限に抑えて、客観的な情報だけで謎や伏線を読者に提示できるわけです。
本作では、冤罪を主張する殺人容疑で有罪判決を受けた人物の依頼で、一人の新聞記者が、事件の調査に乗り出します。その際の手がかりとなるのが、事件に関する新聞記事、公判調書、そして事件関係者との取材時の録音記録といった、主観を挟まない客観的情報ばかり。しかし、それらの断片から浮かび上がる情報はどれも被告に不利なものばかり。これをどう覆すのかが大きな見どころ。
こうした事実情報を追うばかりだと、物語が地味で退屈な印象になってしまいそうですが、本作では描かれる謎そのものの面白さもあって、最後まで退屈せずに読むことができました。ミステリーとしての完成度はもちろん、モキュメンタリーという手法の更なる可能性を示した点でも評価したい作品です。
(じわりと恐怖が染み込んでくるモキュメンタリー4選/文=柿崎憲)
モキュメンタリー小説の質は、作中で引用されている文章の「それっぽさ」で決まると思うんですよ。小説の文体は十人十色で、オリジナリティが高いほど評価されがちですが、モキュメンタリー小説の場合、逆にどこかで見たことがあるような内容であるほど、より臨場感を生み出します。
本作ではタイトルにあるように、あるコンテストの特別賞を受賞したWeb小説作家が書いた、自身の経験を踏まえた創作論が引用されているのですが、その内容が実に「それっぽい」!! 行間のあちこちから作者のドヤ顔が透けて見えるようで、カクヨムに投稿している人であれば「こんな感じの創作論、見たことある!」という、ほっこりした気持ちになれること間違いなしです!
創作論とモキュメンタリーを組み合わせるという発想の時点で素晴らしいのですが、それだけに終わらず、この創作論の合間に、ある大学生の独白が挟まれており、一見無関係に見える二つの内容が徐々に重なっていく様子が実に巧み。それでいて創作に対するある種の情念もしっかり描かれていて、色んな意味で参考となる一作です。
(じわりと恐怖が染み込んでくるモキュメンタリー4選/文=柿崎憲)