気が付けば今年ももう二週間切ってしまいましたね。大掃除とか年賀状とか仕事納めとか年末進行とか何かと大変な時期ですが、楽しいお正月を迎えるためにもうひと頑張りしていきましょう! まあ僕の今年の予定はM-1グランプリを見ることぐらいしか残っていないわけですが……。クリスマス? ああ世の中にはそういう行事もあるらしいっスね……。
さてそんなわけでは今回は新作特集の金のたまご。サイバーパンクな世界を疾走する魔法少女から、虐殺の限りを尽くす悪役貴族、さらに全く未知の状況に置かれた記憶喪失の主人公の自分探しに、様々な種類の恐怖を煽る短編集など魅力的な作品を厳選いたしました! それでは皆さま良いお年を!!
『魔法少女まどか☆マギカ』以降、「魔法少女って実はブラックな環境なのでは……?」と様々な形で魔法少女の闇を描く作品が登場してきたが、本作はそこにさらにブラックな要素が多いジャンルであるサイバーパンクを組み合わせてきた。おかげで本作の魔法少女の描かれ方は通常よりもさらに悪辣さを増している。
M粒子と呼ばれる特殊な粒子を操ることで、多様な兵器や電子機器をまるで魔法のように自在に運用できる魔法少女たち。一皮むけば危険すぎる存在なので彼女たちは政府によって薬品で脳を制御されているし、自由な思考や回想すら許されていない。
さらに彼女たちが戦う魔女の正体は、かつて政府によって作られた元魔法少女たち。始まりは同じだった少女たちが、立場を違えて互いに殺し合うという過酷すぎる運命。そうした魔女との戦闘によって魔法少女たちは簡単に死んでしまうし、身体に残されたわずかな生身の箇所も容赦なく奪われる。
物語は残酷の組み合わせとしか言えない展開の連続なのだが、それでいてサイバーパンク要素を取り入れた戦闘描写が非常にカッコいいから困ってしまう。特に主人公であるストロベリーピンクが武器に糸を使っているのもカッコよければ、決着の方法が相手の心臓をハッキングするという形なのも痺れる。
目をそむけたくなるような悲惨な展開がたっぷりと描かれているのに、目を離せない魅力的なアクションが満載で、魔法少女とサイバーパンクという全く別のジャンルの美味しい部分を見事に調和させた逸品だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
ゲームの悪役貴族に転生した主人公が本来のシナリオを変えて大活躍……というのは今や定番となっているが、本作の主人公であるディオニソス、通称『殺戮皇』は特に人格が変わらないまま、領内の盗賊たちを拷問したり処刑したりとやりたい放題。
しかし、そんなある日、彼の脳内にプレイヤーを名乗る謎の声が聞こえるように。このプレイヤーを名乗る存在は、このままだとバッドエンドになるから未来を変えるためのアドバイスをしてくれるのだが、当のディオニソスはこれをガン無視!
多少腹痛を起こさせるぐらいはできるものの、基本的な行動に影響を与えられないプレイヤーと、ピカレスクな魅力が満載のディオニソスの関係性が実に絶妙で、価値観はすれ違いまくりな二人の噛み合わないやり取りが大変面白い。
普段の所業が残虐なだけに他の貴族からは蛇蝎のごとく嫌われるディオニソスだが、盲目の皇女だけにはなぜかやたらと好かれており、この皇女もまた一癖ある人物で、彼女に対するディオニソスの露骨にギスギスした対応もこれまた面白い。
ゲーム本編ではディオニソスも皇女も死ぬ運命にあるのだが、ディオニソスはどこまで自分の道を進めるのか、そしてアドバイスしかできないプレイヤーは彼らの運命を変えることができるのか。少し違った角度で描かれる異世界ファンタジーだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
光も音もない空間の中で、手元にあるキーボードを通す形でしか自分の思考を形成することができなくなった主人公。本作は主人公がキーボードに打ち込んだ思考の内容がそのまま小説になるという少し変わった構成となっている。
五感がほぼ封じられ、キーボードの「FとJの突起だけ」ぐらいしか感じることができない閉鎖空間の中で、記憶すら失っている主人公が、なぜ自分がこのような状況にあるのかを推測しようとする過程が大変面白い。
様々な思考と推測、そして質問を重ねた末に、新たな情報を少しずつ手に入れていくのだが、情報が増えるたびにどんどん不穏な雰囲気が高まるのに、それでも続きが気になって読むのがやめられなくなるというストーリー構成もお見事。冒頭から魅力的な謎を配置して読者を引きつけて、その謎を引っ張ったまま読者をラストまで連れていくという短編小説のお手本のような一作で、ラストに何とも言い難い余韻を残しながら、しっかりとタイトルを回収していくのも素晴らしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
周りの人には平気そうに見えることでも、高いところがダメだったり、尖ったものが苦手だったり、犬が怖かったりする人もいるものです。ちなみに私は理髪店で髪を切るときに、耳の近くで鋏をジャキジャキされる音が苦手です。
本作はそんな特定のものに恐怖してしまう人たちの物語を集めた短編集。「出血」や「閉所」という恐怖症の代表的なものから、「芋虫」や「ゴキブリ」といったわかりやすい嫌われものに、「駅」や「美人」といったあまりピンと来ないようなものまで、様々なものに関する恐怖が描かれます。
各短編の登場人物の性別や年齢、時代背景などは全てバラバラで、共通しているのは、何かを恐れている人たちが出るというところのみ。描かれる怖さの種類も心理的なものから超自然的な展開まであって、かなり幅があります。
作者の手慣れた文章でどの話も十分読ませてくれるのですが、中には怖さがピンと来ないものもあるかもしれません。でもねえ……作者が描く恐怖とこちらのチャンネルがピタリとあったときは、通常のホラーよりもずっと「刺さる」んですよ……。
興味を持った人はまず作品のタイトルの一覧から自身の怖いものを探してみてください。そこからはもうホラー好きにはお楽しみの時間の始まりです……。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)