自身の運命を教えられても悪役貴族は思うがままに生きる!

 ゲームの悪役貴族に転生した主人公が本来のシナリオを変えて大活躍……というのは今や定番となっているが、本作の主人公であるディオニソス、通称『殺戮皇』は特に人格が変わらないまま、領内の盗賊たちを拷問したり処刑したりとやりたい放題。

 しかし、そんなある日、彼の脳内にプレイヤーを名乗る謎の声が聞こえるように。このプレイヤーを名乗る存在は、このままだとバッドエンドになるから未来を変えるためのアドバイスをしてくれるのだが、当のディオニソスはこれをガン無視!

 多少腹痛を起こさせるぐらいはできるものの、基本的な行動に影響を与えられないプレイヤーと、ピカレスクな魅力が満載のディオニソスの関係性が実に絶妙で、価値観はすれ違いまくりな二人の噛み合わないやり取りが大変面白い。

 普段の所業が残虐なだけに他の貴族からは蛇蝎のごとく嫌われるディオニソスだが、盲目の皇女だけにはなぜかやたらと好かれており、この皇女もまた一癖ある人物で、彼女に対するディオニソスの露骨にギスギスした対応もこれまた面白い。

 ゲーム本編ではディオニソスも皇女も死ぬ運命にあるのだが、ディオニソスはどこまで自分の道を進めるのか、そしてアドバイスしかできないプレイヤーは彼らの運命を変えることができるのか。少し違った角度で描かれる異世界ファンタジーだ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)