概要
『茶房カフカ』のトキワの幼少時のお話です。独立した小説となっていますので、『茶房カフカ』未読でもお楽しみになれます。
※ 自死をにおわせる描写があります。苦手な方はご注意ください。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!普通からの脱却。師の超越。
柚葉とって生涯を捧げることになるピアノは、母がきっかけで始めた。しかし母は柚葉に「普通であること」を求める。柚葉には、たとえピアノを与えてくれた母が相手でも譲れない自分らしさがあり、それを貫こうとする。
成長するにつれて柚葉は、「自分らしさ」と「普通であること」の狭間で一層苦しむことに。周りの人間から否定されることも増える中、柚葉を認めてくれたのは、憧れのピアニストであり、後に師匠となる緑子だった。
ピアニストとしても、人としても、柚葉は緑子に憧れる。緑子もまた、自分らしい生き方、そして演奏を貫いてきた人だった。緑子の後押しを受けて、柚葉は「普通であること」から少しずつ脱却していく。
緑…続きを読む - ★★★ Excellent!!!クラシックとピアノを愛する人のための物語
ピアノが好きで、ちょっと変わった内気な少女の成長物語と思って読んでいたら、どんどん話が膨らんでいきました。主人公が周りの社会に感じる違和感、親子の葛藤、やがて、ピアノを通じて信頼できる師に出会い、さらに成長していきます。その師もまた、優れた演奏家ならではの癖の強さと、過去の傷を隠しています。師匠と弟子の物語でもあります。
そして、音楽。物語の中で様々なピアノ曲が渦を巻いて流れていきます。音楽を、音をここまで言葉で表現できるものかと感嘆しました。私は、ピアノは子供の頃に習ったきりで、もう、譜面も読めなくなりました。それでも、読みながら、ピアノの音が頭の中に流れてきました。
音楽の好きな方、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ゴジュウカラは、何処へ飛ぶ
作者の既出作【茶房カフカ】に登場する
と或る人物の幼少期から思春期までを描く
物語であるが、それを知らずとも充分過ぎる
深く昏い森林の如き、或いは純白の雪の
中の如くに温かな
師弟愛 と 成長 の物語だ。
舞台は、美しい自然溢れる北国帯広の町を
中心に紡がれて行く。
自らの性自認に違和感を持つ主人公は、当初
まだ幼児であり、それは音楽に造詣の深い
一家の中で時に見過ごされ、又時には小さな
鋭い棘となって幼い心を苛んで来た。
ある時、引退した名ピアニストの奏でる
チャイコフスキーの交響曲第六番『悲壮』の
連弾に 天啓 とも言える衝撃を受けたが
それは後々、自らのピアニストとしての
そして…続きを読む - ★★★ Excellent!!!人生をかけた刹那が可能性の音へと紡がれる大作
引退したピアニスト石竹緑子のチャイコフスキーの交響曲第六番『悲愴』のピアノ連弾を聞いた主人公の柚葉。彼女はその音に宿る地を這う昏さと深淵の海の暗緑に魅せられ緑子に師事するところから物語は始まります。
この物語は柚葉の家族と友人たち、そして大切な師匠・石竹緑子と周囲で支えるかけがえのない人たちの間で織りなされる音楽にまつわる素敵な人間ドラマです。
恩田陸著の本屋大賞受賞作『蜜蜂と遠雷』を彷彿とさせる音に関する抜群の写実的な描写力が持ち味の本作。譜面という平面的な領域を超えていく音の立体的なイメージの拡張も去ることながら、五感を介して紡がれた風景が脳内にしとやかに、そして上質な追憶として流れ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!そして少女はピアニストになる
一人の少女がピアニストになる覚悟を決めるまでの物語です。北海道の雄大な自然を背景にして物語は展開されます。少女は師匠となる人物と出会い、自分の才能と向き合い、悩み成長していきます。
しかし一方で、師匠は自分の一番弟子となる少女と出会うという幸運に恵まれたとも言えます。そうして少女に自分の内にあるものを残し伝えようとします。それは跡を継がせるわけではなく、技術的なコピーを残すという事でもありません。
実は別の物語の前日譚でもあります。その後のこの少女の姿を見たい方は↓をどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16818093082568304555 - ★★★ Excellent!!!暗い音の奥で、自分を探す物語
『ゴジュウカラ』は、ピアノの音に導かれながら、自分の輪郭を探していく少女・柚葉さんの物語やね。けれど、これは単に「音楽の才能を伸ばしていく成長譚」では終わらへん作品やと思う。幼いころに出会った昏い低音、その音へどうしようもなく惹かれてしまう感覚、周囲が望む姿と自分の内側とのずれ――そういう言葉にしにくい違和感が、ピアノ、家族、学校、服装、呼び方の中に静かに染み込んでいくんよ。
この作品の魅力は、苦しさを大声で説明せえへんところにあると思う。柚葉さんが何に傷つき、何に救われ、何を選ぼうとしているのかを、音の響きや身体の反応、沈黙の間から読ませてくれる。だから読者は、出来事を追うだけやなく、柚…続きを読む