「余白の声」第15話「聞いていない」

秋定弦司

「その理屈で、誰を黙らせたいのか」

 ああ、そうですか。

「評価がなくても続けられるようになりましょう」と。

 ご立派なお心がけでいらっしゃいますね。


 ただ、ひとつだけ伺ってもよろしいでしょうか?

 評価が完全に存在しない状態とは、具体的にどのような場所をお想定で?


 誰にも触れられず、誰にも届かず、それでも「続けている」と言い切れる環境が、現実にございますのでしょうか?


 満足の基準は、どなたがお決めに?

 完成の線は、どこに引かれるおつもりで?


「ひとりでやっているだけでは足りない」――なるほど。


 ですが、失礼ながら、ひとりでやる以外に、どのような方法がございますのでしょうか?

 まさか、どなたかが代わりに手を動かしてくださるとでもおっしゃるのでしょうか?


 足りるかどうかを決めるのは、外側ではございません。

 手を動かした当人でございます。


 他人様の喉を通った定義を、そのまま飲み下す義務など、どこにもございません。


 出来が良いかどうか?

 それは受け取った側が判断なさること。

 少なくとも、語る位置に立った方の専権事項ではございません。


 さて。

 今度は別のご事情をお持ち出しですね。


「周囲の期待」

「支えてくれた方々」

「やめた時の失望」


 ……失礼ですが、それはもう、表現の話ではございません。


 続けたい。

 降りられない。

 怖い。


 そうおっしゃれば、それで済むお話を――ずいぶんと丁寧に飾り立てなさる。


 終わりは、必ず参ります。

 それを否定なさるのでしたら、どうぞ先に、ご自身で証明なさってくださいな。


「内側からの承認が必要」ですか?


 では伺いましょう。


 外にいる受け手は、最初から数に入っておりませんのでしょうか?

 受け取る側を軽く扱って、何をお得になさるおつもりでしょうか?


 そもそも――区別なさる理由は何でございましょうか。


 線を引く意味は、誰のためにあるのですか?


 さらに「受け取る側にも種類がある」と。


 違うとおっしゃるなら、どうぞご説明なさいませ。

 言葉だけ置いて立ち去るのは、あまりにも不親切です。

 選ばれた側の理屈で、選ばれなかった側を黙らせるおつもりでしょうか?


 成果や実績を看板のように掲げる行為は、思想ではなく――合図に近うございます。

 従わせるための、大変わかりやすい合図。


 結局のところ、最後に残るのはよく磨かれた言葉だけ。

 賢そうで、筋が通っているようで、触れてみれば――軽い。


 持ち上げましたら、中は空でございました。

 ですから私は、その声を置いてまいります。


 評価も、数字も、期待も、すべて承知の上で、それでも続ける側に残ります。


 声は、まだ何か仰っているようですけれど。


 ――申し訳ございません。


 もう、聞いておりません。


 ……

 ……

 ……


 クソくらえだ!

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