人が人で在るために。

およそ三十年前、『耳の中に卵状のものが発生する』という奇妙な現象が発見された。
そこから生まれくる生き物は、人呼んで『似人』。
成長速度や意思疎通の難しさ、感情表現の乏しさ等の差異はあるものの、由来の通り見た目は人によく似たもの。
当時は様々な憶測を呼びパニックとなったその現象だが、似人は人の代替、もっと言えば最下層の人の代替として重用されるように。
それにしたがってだろう、耳の中に卵が発生した人は『ハハ』と呼ばれ感謝されるほどになった。
本作は、そのような社会において耳に卵が出来た主人公によって語られる話だ。

人は似人を資源化するだけでは飽き足らず、
押し付けたい役割を神聖視する素振りを見せて押し付けたり、
最下層の存在として位置付けていることを隠しもせずサンドバッグにしたり、
彼らを庇護対象として扱ったりと、なんだかこの世界が現実社会の縮図のように見えて仕方がない。

『ハハ』となったことが判明した当初はうっすら嫌悪感すら抱いていたとおぼしき主人公が『母』のように変化していく過程もまた、真に迫るものがあった。
最後に取った行動が正しかったかはさておき、主人公からは実に人間らしい情を感じた。
しかし、似人を活用する人々も悪辣ではあるが、それも人間らしさといえば人間らしさだ。
だが、果たしてそれを肯定していいのか?
人間の定義とは?人間の在り方とは?
人の命や権利が軽く扱われる時代だからこそ、おすすめしたい作品だ。

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