マウントお嬢様はご祝儀でもマウントとりたい

片月いち

華麗なるお嬢様のマウントバトル

 その日。貴族や王族などの結婚式にも使われる町一番の教会の前では、たくさんの貴族たちが集まっていました。


 地方貴族の一つ、ブライダリア家。

 そこに、わたくしのお友達であるステューシーが嫁入りしたのです。

 当然わたくしもその結婚披露宴に呼ばれ、会場の教会まで足を運んだのですわ。


「まあ、ご覧になって。セレブリア様がいらっしゃったわ」

「なんて美しい深紅のドレス……」

「さすが四大貴族の一つ、イーストット家のお嬢様……。貫禄が違いますわね」


 わたくしは羨望の眼差しを一身に受けつつゆっくりと足を進めます。イーストット家はこの国の東の有力貴族。その令嬢たるわたくしも、社交界で絶大な力を持っています。


 まあ、そのことを鼻にかけるつもりはございませんが、下級貴族の彼女らが見とれてしまうのも仕方ありませんわね。おほほほ。


 わたくしは、より多くの羨望を受けるためになるべくゆっくり歩き、そして披露宴会場の受付までやってきました。


「セレブリア・イーストットです。じい、受付を」

「は。お嬢様」


 わたくしは会場の前の受付で付き人のじいに記帳させます。そして横目でご祝儀袋の山を確認しました。

 おそらくわたくしが来る前に受付を済まされた方たちのご祝儀袋。薄い薄い封筒のようなそれを見て、ふっと笑みがこぼれます。


「そうそう。これをステューシーに渡してくださる? ほんの“僅か”ばかりの気持ちですが……」


 そしてわたくしは懐からご祝儀袋を取り出します。

 ――ごとんと、レンガのように分厚いご祝儀袋を机の上に置きました。


「あ、あんなに分厚いご祝儀袋を!?」

「信じられません。いったい幾ら入っているのでしょう……!」


 マウントを――とる。


 会場のどよめきが気持ちいいですわ。誰しも信じられないという顔でわたくしを見ています。

 うふふふ。そうですわ。これですこれ!

 この瞬間のためにわたくしは、半年前からおやつも誕生日プレゼントも我慢してきたのです!


 受付の方が、レンガ並みのご祝儀袋に慌てます。


「い、いけませんイーストット様。このような大金を……」

「いいのです。ステューシーは大切なお友達。この程度、彼女へのお祝いの気持ちに比べれば“少額”でしかありません」


 それに――


「わたくしは誇り高きイーストット家の娘。……生憎、“これ以下のお金は扱っておりません”の」


 ――決まった。


 決まりましたわ。完璧なマウンティングです。

 金額そのものではなく、この大金を簡単に扱えるという物差しをマウントにする。

 数々のマウントバトルを制してきた、わたくしならではの高等テクニックですわ。


 ……まあ、本当を言うとイーストット家はそこまで裕福ではありませんが。

 今日だって馬車でなく徒歩で来ることで交通費を浮かせているんですが。

 そんなことは知らない周囲の方々からの、畏れすら混じった視線に満足しながら、優雅に披露宴会場に足を進めます。


 うふふ。今日もいいマウントでしたわ。

 そう愉悦に浸っていたのに――


 ちょうど嫌な奴が目に入りました。


「あらセレブリア? 先に来ていたのね」


 現れたのは深い紺のドレスを身に纏った令嬢――四大貴族の一つ、ウェスタニア家のジュエリーでした。

 またの名を、西のマウントお嬢様。


 彼女の自信あふれる足取りは会場の他の令嬢たちの視線を奪います。大の宝石が好きで、コレクションの中には貴重な宝石が数多く存在していると聞きます。

 当然、今も様々な宝石を身に着けています。彼女はただ歩くだけでマウントを取ってくるのでした。


 ……ちっ、厄介な相手が来ましたわ。わたくしの存在が霞んでしまうではありませんか。


「久しぶりねセレブリア。……貴女はもう受付は済ませたの?」

「え……ええ。ジュエリー。先ほど済ませましたわ」

「そう」


 ジュエリーが僅かに視線を動かし、机の上に置かれているご祝儀袋を確認しました。

 わたくしのレンガご祝儀袋を見て、ふっと笑みをこぼします。


「貴女はずいぶん大きなご祝儀袋を持ってきたのね、セレブリア」

「大切な友人の結婚披露宴ですもの。……ま、まあわたくしにとっては大きな出費ではありませんが」

「そう。私は貴女ほど多くは出せないわ。私に出せるのは“この程度”が精一杯――」


 付き人に合図を出して、ジュエリーのご祝儀が置かれる。

 ゴトリと机の上に置かれたそれに、会場の令嬢たちは悲鳴のような声を上げました。


「な、なんて大きなダイヤ! わたくしの握りこぶし以上の大きさですわ!」

「信じられません。これほどのものをご祝儀で用意するなんて……。ウェスタニア家はよほど大きな力を持っているのですね」

「さすがにこれほどのダイヤとなると……セレブリア様のご祝儀は一歩劣って見えますわね」


 ギャラリーが感嘆の声を上げます。……って、ちょっと待ちなさい。最後のセリフは誰ですの? わたくしだって今日のために必死で貯めたというのに!


 ……ぎりぎりと歯噛みしながらジュエリーを見ると、完全に勝ち誇った様子で見下してきます。

 手で隠したつもりでしょうが、にやけた口元が丸見えですわよコンニャロウ。


「……くくく。いいでしょう、乗って差し上げましょう」


 売られたマウントバトルは買う主義です。

 わたくしはじいに持たせていた鞄をひったくりました。


「なら次はわたくしのターンです! おらッ、レンガもう一個追加ァ!!」

「お嬢様! それ私の財布……」


 じいの制止は無視する。わたくしはじいの財布を生贄に、レンガを追加で召喚します。

 ダイヤ一つに対してレンガ二つ――。これでわたくしが微有利(?)となりました。


「くっ。まだカードを隠し持っていたのね、セレブリア……!」

「マウントバトルに臨む者として、切り札は最後まで隠しておくのは当然ですわ」

「ふふふ。さすが東のマウントお嬢様、セレブリア。腕は鈍っていないということね……」

「いや、だからそれ私の財布……」


 じいがこっそりレンガを回収しようとしたので、その手を引っ叩きます。あとでちゃんと返金しますから今はわたくしに預けなさい。

 この戦いには、イーストット家とわたくしの意地と見栄がかかっているのです。


 ふと、ジュエリーから表情が消えました。一拍の後、酷く冷たい笑みを浮かべます。

 何かと疑問に思う間もなく、彼女は身に着けていたネックレスに手をかけました。


「残念だったわね、セレブリア。奥の手があるのは貴女だけじゃないわ」

「な!? まさか貴女――」

「ここで負けるくらいなら……全部くれてやりゃあああ!!」


 ジュエリーは自分が身に着けていたネックレスや指輪を全部外して、ご祝儀として机の上に置いていきます。

 ああ、なんということ! 淑女が身を飾るアクセサリーを投げ打つなんて! マウントバトルにかける強い執念がなせる技です。


 でも……これではわたくしが負けてしまう!

 これ以上は、あとは道中の宿泊費を犠牲にして野宿するしか。さすがにそれは躊躇われる。いったいどうすれば――


「おやおや。ずいぶん騒がしいどすなぁ。何をしてはるんどす? お二方」


 そのとき。

 また別のお嬢様が受付にやってきました。新緑のドレスを身に纏った飄々とした態度のお嬢様――


「貴女は……メルカリーナ!?」


 現れたのは四大貴族の一つ、南のマウントお嬢様、メルカリーナ・サウスタニアでした。

 外海での交易で財を成した新しい貴族で、巨大商船組合を束ねる彼女の家は、商業分野で絶大な影響力を誇ります。


 メルカリーナ自身も、貴族というより商家の娘といった感じで、はんなりとした見た目にそぐわず計算高いマウントを繰り出してきます。


 ……くっ。ここにきて新手とは。ジュエリーだけでも苦戦しているのに。


「おやまあ、仰山宝石を外してどないしたんどす? ……あ、もしかしてご祝儀ゆうやつですか?」


 パタパタと扇子をあおぎながら受付に近づいてくるメルカリーナ。


「すみませんなあ。ウチはそんな立派なモン用意してませんでしたわ。ウチが用意したのはせいぜい……」


 そう言って付き人に指示を出して大きな荷物をどんと受付の机に置きます。

 厳重に蓋をしたその箱を開けました。


「こ、これは……?」

「外国の船で取れた珍しいカニどす。ウチも食べさしてもらいましたけど、そりゃあまあ美味しゅうて美味しゅうて。ぜひご新婚さんもと思うて持ってきたんどす」

「へ、へえ……」


 カニ? ここに来て食材ですか。何かと思えばずいぶんと庶民的な。これくらいならわたくしでも、ジュエリーでも簡単に手に入れられるでしょう。

 いったい何を考えているのか……。


 ――いや。まさか!


「十年に一度獲れるか獲れないかの一品どす。ウチの組合やないと手に出来んでしょうぁ……」 


 “希少性マウント”――!


 モノや金額の多寡ではなく、そのものの希少性に焦点を当てたマウントの取り方です。

 しかもご丁寧にメルカリーナは「自分は食べたことがある」と前置きしています。

 こんな希少なものを自分は普通に食べられますけど? という言外のマウントも含まれているのです。


「ぐっ……それは珍しいものをお持ちになられましたね」

「ええ。ステューシーはんも喜んでくれるとええんですけど」


 メルカリーナはすでに勝者の余裕を見せています。外はけっこう寒いはずなのに、扇子を出してこれ見よがしに扇いでくる。

 ポーズだけで実際は必要ないでしょうに!


 しかし、これでわたくしもジュエリーも劣勢に立たされました。

 どうにか起死回生の一手を考えないと……。


「あれ。こんなところで何をしているんだい?」


 また別のマウントお嬢様が現れる。

 北のマウントお嬢様、ライツ・ノーザンベルでした。


 四大貴族の最後の一人です。背が高く、中性的な顔つきをした彼女は、煌びやかな金のドレスを纏って登場でした。

 完全に新郎新婦を喰ってかかろうという出で立ち……。自分が一番目立たないと許せないライツらしい空気の読めなさです。


「なんだ。まだ受付を済ませていなかったのかい? ボクはさっさと会場に入りたいんだ。行かないならボクが先にいいかな?」


 呆気に取られているわたくし達を素通りして、さっさと名前を記帳していくライツ。

 ああそういえばと、わざとらしく付き人に言いました。


「ご祝儀を渡してくれないかな? 例の奴だよ」


 まるでわたくし達のマウントバトルなど興味がないとでも言わんばかりに、ライツは一枚のご祝儀袋を置いていきます。


 普通の封筒サイズです。下級貴族の娘たちが置いていったものと変わらないサイズ。

 でもあのライツが、そんな普通のご祝儀で済ませるはずがありません。


「な、何が入っているの? その中には……」


 たまらずジュエリーがライツに訊ねました。わたくし達もその質問に同調します。


「嫌だな。他人のご祝儀袋の中なんて訊ねるべきじゃないだろう?」

「嘘おっしゃい! 貴女さっきからぜんぜん進んでないじゃありませんか! 聞いて欲しくて欲しくて、その場で歩いてるフリをしているだけじゃありませんか!」


 意味もなく颯爽と歩くフリだけをしていたライツ。彼女は仕方ないなあと勿体ぶって言いました。


「これは招待状だよ。――王宮で開かれる交流会のね」


 ピリッと電撃が走ったような錯覚がしました。まさか、そんなこと。

 王宮で行なわれる交流会は、王族と限られた貴族のみが出席を許されています。

 わたくし達がいくら貴族といえ、簡単に呼ばれるような場所ではありません。


 それをライツは手に入れた? しかも他人に渡すというのですか……?


「ボクの家は歴代の大臣と懇意にさせてもらっているからね。よく招待状が届くのさ。まあ、今回はボクの方からステューシーを呼んであげられないか頼んだのだけどね」


 何てことない風を装ってライツは言います。間違いありません。これは――


「ボクくらいの家になると、これくらいのことはできるのさ」


 ……“利権マウント”!


「そ、そうなんどすか? うううう羨ましいどすなぁ……?」

「ボクはもう通い過ぎて飽きてしまったけどね。まったく家柄が良いのもいいことばかりじゃないさ」


 ライツの登場により、マウントバトルは第二ラウンドへ突入したみたいでした。

 ジュエリーもメルカリーナも悔しそうな顔を浮かべますが、まだ降参する様子は見られません。

 つまり彼女らはまだ奥の手を隠し持っている。


「――じい!」


 すっかり敗北者扱いのわたくしは、悔しまぎれにじいを呼びます。


 じいは両腕をクロスして「バツ」のジェスチャーで返す。セコンドは敗北を勧告しました。わたくし達にはもう手が残されていなかったのです。


 くっ、どうすれば。このまま潔く敗けを認めるのか? いえ、そんなこと絶対に認められません。それができるならマウントバトルに参加などしていません。


 ではどうする? ハッタリで凌ぐか? 嘘でわたくしも交流会の招待状を……いえ。駄目です。それはマウントバトルの高潔な精神にもとる。では、いったいどうすれば……。


 そんなわたくしの手に、じゃらりと首飾りが触れました。


(これはお母様の形見の首飾り。さすがにこれを使う訳には……)


 いくらマウントバトルに勝つためとはいえ、母の形見にまで手を出すわけにはいきません。

 いや、たしかに一瞬思いましたけど、心まで敗北者になるわけには……。


 しかし、そのとき。

 わたくしの脳裏に懐かしい声が聞こえてきたのです。


(セレブリア……セレブリアよ……)

(お母様!? どうしてお母様がここに――)

(何を躊躇しているのです。貴女はどんな手を使っても勝たなければいけません)


 ぼんやりとお母様の幻影が見えます。

 お母様は、立ち止まってしまったわたくしの肩に優しく手をかけました。


(勝つのです。セレブリア。それがイーストット家の女の使命なのです……!)


 とん、と背中を押されたような気がしました。そして思い出します。

 ――お母様もまた、数々のマウントバトルを繰り広げてきた猛者であることを!


 西にマウントバトルあれば行ってマウントを仕掛け、南に、北にマウントバトルあれば、どこまでも追いかけてマウントを取る。

 果ては名もなき草花にさえマウントを取ったという生粋のマウンティスト(マウントバトルに臨む者達のこと)であるお母様!


 わたくしにはその血と見栄が流れている!


「わかりましたお母様。きっと、勝ってみせます……!」

「お、お嬢様!? 何を――」


 じいを無視して走り出します。

 お母様がくれた起死回生のチャンスを活かすため、会場の教会を出て一心不乱に走る。


 わたくしにはお母様がついている。だから絶対に盤面をひっくり返せる。

 そう信じて、今はただ走ったのですわ。



 ◆



「くっ、これならどうだい? この有名ワイナリーでの一年間飲み放題チケットというのは――」


 わたくしが戻ると、受付ではまだあの三人のマウントバトルが続いていました。

 マウントバトルは徐々にヒートアップしているようですが、三人ともすでに疲労困憊に見えました。


「ちょっとよろしいですか? わたくし、新しいご祝儀を用意させて頂きましたの」


 そんな彼女らに割って入る。

 三人はとっくに敗北して逃げたと思われたわたくしの再エントリーに、怪訝な表情を浮かべました。


「何よ。戻ってきたの? 悪いけどこっちは女に構っている暇はもうなくてよ?」

「その通りだよセレブリア。それに君は手ぶらのようじゃないか。今さらボク達の戦いについて来られるのかい?」


 彼女らはもう無理だから止めておけという態度。

 しかし、その油断が命取りです。


「ええ。わたくし、少しいいことを思いつきまして。それで急に会場を飛び出してしまいました」

「いいこと? そういえばセレブリアはんの後ろにいる方はどなたどす? 披露宴の関係者には……」


 わたくしの後ろには、わたくしと共に走ってここまでやって来たハンチング帽の紳士がいます。わたくしはお母様の形見を“売って”、代わりに彼を雇ったのです。

 ハンチング帽の紳士は、箱形の機械を持っています。


「彼は……“カメラマン”ですわ。この町には貴重な“写真機”があると思い出したので、急ぎご足労頂いたの」

「カメラマン? そんな人を連れてきていったい何を……」

「何をって、決まってるじゃありませんか。新郎新婦のお二人の写真を撮って頂くの。今日はお二人にとって記念すべき日ですから」


 わたくしは写真をステューシーに届けます。祝いの日、二人にとって大切な思い出をご祝儀として差し上げる。


 そう。これは――


「だって……ステューシーが“笑顔になる”のが一番のご祝儀じゃありませんか?」


 “思いやりマウント”……!


 ただ競うだけでなく受け取る当人のこともわたくしは考えてますよ、という善意をマウントの材料にする。

 貴女達はそれが出来ているの? という、今までの劣勢の立場を利用・反転して攻撃に変える、起死回生のマウントですわ!


「そ、そうね。ステューシーの笑顔が一番ですものね……」

「ま、間違いないですわ。せ、セレブリアはんはお優しいどすなぁ」

「ぼぼぼボクも同じことを、かかかか考えていたけどね……」


 そうしてマウントバトルはまた振り出しに戻りました。

 誰しも勝者とするには決定打に欠ける。お互いに切れる手札も少ない。ですが勝ちを譲る気は誰もありません。


 睨み合い、牽制を利かせ、じりじりと次の一手を考えます。

 誰も手にしていない、最後の、おそらく最強カード。最初にそれを切った者がこのマウントバトルの勝者となる……!


「あのぅ」


 ふと、そんな白熱するわたくし達の間に、じいの声が割って入りました。

 勝負に水を差されたわたくし達は、げんなりしながら振り返る。


 彼はこう続けました。


「披露宴、もう終わってますけど……?」



 ◆



 後日。わたくしは自分の屋敷の中である仕事に精を出していました。

 ゴシゴシとブラシを使っても丹念に磨きあげる。お父様に罰として命じられたトイレ掃除でした。


 あの白熱したマウントバトルの後、なんやかんやあって解散したわたくし達はそれぞれ帰路に着きます。

 ですがわたくしは、お父様にお母様の形見を売ったことを知られ、大変叱られてしまったのです。

 激怒です。大激怒。結果としてわたくしは、一週間屋敷のトイレ掃除をやらされることになったのでした。


 掃除は今日でちょうど期限の一週間後。メイド達から掃除のテクニックを伝授されたわたくしは、すでにトイレ掃除マスターの領域に足を踏み入れていました。


「ふぅ。こんなものかしら……」


 わたくしは一息ついて髪をかきあげます。そうしていつものお嬢様スタイルに戻る。中々刺激的な体験でしたわ。


 ちなみにわたくしの首元にはお母様の形見の首飾りが戻っています。一部始終を聞いたお父様が慌てて買い戻したのです。

 まあ、今後何があってもこれには手を付けないようにと厳重注意を受けましたが。


「お嬢様〜! お手紙が届いておりますぞ〜!」


 じいがわたくしを呼んでいます。もちろん彼の財布も取り戻しています。その後二、三日は口も利いてもらえなかったですが、今では元通りの関係です。


「どなたかしら……」


 わたくしはじいから手紙を受け取り、その封を切りました。どうやらステューシーからの手紙のようです。


 手紙には披露宴に来てくれたことと、ご祝儀の礼(結局写真も撮った)が綴られていました。

 内容は夫婦の新婚生活へ移っていきます。


 優しい夫に恵まれたこと。いつも自分を愛してくれること。イケメンで高身長、しかも高収入で家事も手伝ってくれること。

 ハネムーンに南国へバカンスに行くつもりなこと。子供は二、三人は作る予定であること……。


 くしゃり――と、手紙を握り潰しました。

 これはまさしく。


「幸せ、マウント……」


 膝から崩れ落ちる。

 敗北感と徒労感。はじめから戦いの勝者は決まっていた。わたしく達は見当外れの場所で見当外れの戦いをしていたんですの。


 でもわたくしは、この戦いの幕引きにある種の清々しさも感じていました。

 まさかこんな方法で盤面をひっくり返してくるとは。ステューシーもやりますわね。これからは、彼女とも熱いバトルを繰り広げることになるでしょう。


「ふふふ。見てなさいステューシー……。勝負はこれからですわ!」


 天に向かって吠える。

 そうしてわたくし達のマウントバトルは、これからもまだまだ続くのですわ……!


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マウントお嬢様はご祝儀でもマウントとりたい 片月いち @katatuki

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