「鉄路断章」第5話「誤差ではなく欠陥」

秋定弦司

現場において、遅れは理由ではなく欠陥である

 私が列車見張員として勤めていた時代の現場におきましては、当時、電波時計の使用は認められておりませんでした。定時刻に電波受信を行う機種が存在し、その過程で時計が一瞬停止する可能性を排除できなかったためでございます。


 安全確認という行為において、時刻の遅れは誤差ではなく欠陥であり、理由や事情によって評価が変動する性質のものではございません。


 秒合わせは本来の手順とは異なることは重々承知いたしておりましたが、携帯電話の時報を用い、すべて手作業で行っておりました。


 許容誤差はプラス1秒まででございます。


 進む時計は管理の対象となりますが、遅れる時計は不適格です。


 頻繁な秒合わせにより竜頭りゅうずが破損することもございましたが、それは過剰な運用ではなく、一般用途を前提とした機器と、現場が要求する水準との差異が露呈した結果に過ぎません。


 冬期においては、防寒服の構造上、腕時計は使用できず、懐中時計を携行しておりました。文字盤は黒地に白抜き文字、カバーガラスはレンズタイプ。暗所や悪天候において即座に視認できること以外に、評価基準は存在いたしません。


 耐久性についても同様で、要求水準を満たさないものは排除されます。それ以上の意味付けは不要でございます。


 不適格――それ以上申し上げることはございません。

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