幻想鉄道

午前二時、街に硝子の雨が降り始める。
それは音も痛みも伴わず、ただ世界の表面を静かに削り取っていく。

雨に触れたものは割れず、しかし確実に変質する。
看板の文字は透明になり、建物の輪郭は反射だけを残して薄れていく。
人々の記憶もまた硝子化し、触れれば崩れそうなまま、内部に堆積していく。

語り手は、眠れぬままその雨を観測し続ける。
時間は進まず、夜は終わらない。
午前二時という一点に固定された世界で、過去と現在は反射し合い、意味を失っていく。

やがて硝子の雨は、物や街だけでなく、
「自己」と「他者」を隔てていた境界にも降り注ぐ。
誰の記憶か分からない破片が混ざり合い、
語り手は自分が誰であったのかを確認できなくなる。

この雨は破壊ではない。
しかし、元に戻ることもない。
透明で不可逆な…続きを読む