エピローグ

 その後、僕の人生に大きな変化はない。


 相変わらず会社に行き、淡々と仕事をこなし、帰宅して眠る。その繰り返しが、何かを取り戻すことも、何かを失わせることもなく続いている。


 ただ一つ、違うのは、明日香のことを意識的に思い出すようになったことだ。

 友達と話し、思い出の場所を訪れ、彼女との記憶を一つずつ掘り起こしていく。そうして初めて、彼女の存在がどれほど僕の生活の中に深く入り込んでいたのかを、少しずつ理解している。


 紗枝にも謝りに行った。

 許してもらえたとは言い難いが、明日香のことを忘れたくないという点では、意見が一致していた。今では月命日になると、一緒に墓参りをする程度には関係も落ち着いている。


 今でも、猫は明日香の姿に見える。

 もう誰かに訴えることも、治そうとすることもしていない。彼女を失った重さの全体像は、まだ掴めていないが、急いで答えを出す必要もない気がしている。


 それでも、確かに変化はあった。

 ある日、会社帰りにいつもの公園に猫を見に行った。

 相変わらず猫は明日香の姿だったが、どこか噛み合わない感じがあった。


 近寄ってきた明日香の頭には、猫耳が生えていた。

 最初は意味がわからなかったが、すぐに理解して、笑ってしまった。


「先は長いなぁ」


 猫耳の間をなでると、明日香は気持ちよさそうに目を細めた。





『いつか猫を飼うその日まで』


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いつか猫を飼うその日まで 1103教室最後尾左端 @indo-1103

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