2.パンツァーの頭の中は大騒ぎ

 さて、今回は執筆中のパンツァーの頭の中の話と、それ故に初心者が困ることに焦点を当ててみましょうか。


 前回もお話したように、パンツァーは執筆の際に全ての情報を脳内で管理しています。

 キャラクター、世界観、起きる出来事、それに対するキャラクターの反応、そして話の締め方。


 プロッターはこれらを設計図としてプロットに起こしていますが、パンツァーはその場で脳内に全てを展開して「さぁ、書くぞ」でそのまま書き始めます。

 年季の入ったパンツァーの脳内では動き始めたキャラクターと並走しながら、見たものそのままを一気に出力していきます。


 なので、ライブ感が非常に高い文章になっています。

 なにしろ、キャラクターのその瞬間、一瞬一瞬を書き留めているからです。

 そのため、キャラクターの反応や心理描写が生々しく感じることが多いでしょう。


 一方で、走り始めたばかりの初心者パンツァーが最初にぶつかるのがここです。


 キャラクターが暴走する。

 脳内映像(文章)がどんどん進んでしまって、出力が追いつかない。


 当然、「あぁ、待って待って!」と悲鳴を上げながら、初心者パンツァーは必死でついていこうとするでしょう。

 なにしろ、捕まえないとその話はどんどん先へ行ってしまうのですから。


 ここが、問題になるんです。


 まだ慣れていないパンツァーは、キャラクター主導が行き過ぎてしまうんです。

 ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、トップスピードで走って行くアスリートを追いかけるカメラマンの様なものです。

 当然、脳内は大騒ぎ。

 執筆を何とか継続しようとしても、「もう走るのがつらい」という疲労が先に来てしまいます。


 なので、まずはそのコントロールを覚えることをおすすめします。


 ・出番が来るまではキャラクターを脳内に呼ばない。


 ・書くぞ、となった時にキャラクターを呼ぶ。


 ・「じゃあ、今日はよろしくね」と簡単に打ち合わせ。


 ・「はい、じゃあいきまーす」でよーいどん。


 ・そこからはキャラクターを信じてただ書き留めるだけに徹する。


 さて、初心者パンツァー、疑問があるでしょう?


 キャラクターが暴走しだしたらどうするの?

 そんな方向に行ったら物語がおかしくなっちゃう、という時はどうするの?


 プロッターはこういう時、キャラクターを元の筋に戻すために「作者の意思」でキャラクターを捻じ曲げます。

 勿論、それは悪いことではありません。

 プロッターにとっては当然のことです。

 設計から外れた行動をされると、完成型が変わってしまう。

 それはプロッターにとっては困ることです。


 翻って、パンツァーの場合はどうなのか。


 ――別に困らなくないですか?


 そのキャラクターはそっちに行きたいんですよ。

 つまり、あなたの脳はキャラクターを信用して、行くべき場所へ行かせようとしているのです。

 その辿り着く場所が見えていないのが、パンツァーという生き物です。


 完全なパンツァーが一切のメモすら作らないのは、この、というのが出来る様になっているからです。


 初心者パンツァーがやりがちなことに以下の状況があります。


 書きたい物語があるので、いくつかのイベントと終わり方は用意したけど、その道中はキャラクターの動くに任せよう。


 プロッターの諸君は、この組み立て方が気持ち悪いものだと感じるでしょう。

 一方、年季の入ったパンツァーは苦笑いで「おやおや、まだまだだな」と眺めるのです。


 これ、すごく精神的な負荷の高い書き方なんです。


 ただでさえ、初心者のパンツァーは執筆ごとに疲労が溜まります。

 その上で「シナリオコントロール」をしながら「キャラクターを自由にさせる」んですよ?

 脳内にわーっと広がった羊を一匹ずつ全て追い立てていく牧羊犬と同じです。

 疲れないと思いますか?


 当然、書きたいと思っても体や心がストップをかける。

 それ以上は疲れすぎる、休みなさい。

 ドクターストップです。


 このタイミングで初心者パンツァーは思ってしまうんです。


 書けない、昨日はあんなに書けたのに今日は指が動かない、自分は才能がないんだ。


 違います。

 ただの脳のセーフティー機能です。


 肉体疲労と違って、脳の疲労というのは目に見えないし、怠いなーという感覚すらありません。

 だから、脳は脳内の大騒ぎを見せておきながら指を動かさせないというストライキをさせるんです。


 パンツァーは執筆中は常に脳をフル回転させています。

 私も一万字ほど書くと、糖分補給をして休憩しないと頭がぼーっとします。

 それぐらい疲労するのに……その上でシナリオのコントロールまでしてられませんよ。


 なのでパンツァーは「キャラクターを信頼してついていく」ことに注力して「シナリオは全てキャラクターまかせ」にするようになっていきます。

 少なくとも私はそうです。


 最初は「それじゃあ設定に齟齬が出たり、物語が破綻してしまう」という恐怖や不安があると思います。

 だからなんだって言うんですか。

 書き始めたばかりなら、プロッターだって齟齬や破綻は出ますよ。


 なので、もしこのままパンツァーとして書いていこうと考えているなら。

 脳内のキャラクターを全面的に信頼してすべてを任せ、作者がやるのは自分の出力に合わせて脳内の大騒ぎのスピードをコントロールする。

 これを覚えるのがいいでしょう。


 今回はこれでいいかな。


 ・パンツァーの執筆方法は脳の疲労がすごく溜まるよ。


 ・書けないのは才能がないからじゃなくて、脳からのドクターストップのサイン。


 ・脳内の大騒ぎに引きずられない、速度のコントロールを覚えよう。


 ・脳内のキャラクターを全面的に信頼して、シナリオコントロールは一旦忘れよう。


 次回はどうしようかな……これも初心者パンツァーがやりがちな、書き上がった後の全面改稿という無駄についてにしましょうか。


 私も脳と同期して少しずつ指が動くようになってきました。

 まだまだ本調子ではないので、話がうまくコントロールできてませんね。

 困ったものです。


 もし、質問などがある初心者パンツァーは、気兼ねなくコメントでもしていってくださいね。

 あと、プロッターは珍獣観察のつもりで読んでいけばよろしい。

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苦しみもがく初心者パンツァーへ贈る、ロートルパンツァーからの緩い覚書 西海子 @i_sai

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