第七話

 清之助さまは毎日卵をよく食べ、同族化は通常よりも早く進みました。

そのお陰か、通常は半年ほどかかる同族化が、たった三月みつきの内に、ほとんど鳥御門とりみかどの者と遜色なくなっておりました。


肩より先に生える翼の、その羽の色合いも美しく、もうしばらくしたらいよいよ立派なものになるかと思われました。


 そんなある日。

清之助さまが姿を消したのでございます。

それも、わたくしの大切な卵と一緒に。


 気が付いたのは夕刻のこと。

朝に交代してから、もう随分と時間が経っておりました。


 先ほど、鳥御門の卵は重病には効かぬと言いましたが、それは無精卵の場合でございます。


 鳥御門の有精卵。

それこそが、万病を治す薬でございました。


 屋敷の中で育ったわたくしはむしろそのことを知りませんでしたが、人間たちの中では、その話が秘め事のように口から口へと伝わっていたらしく、清之助さまもそのことを知っていたのです。


 最初から、清之助さまはわたくしに有精卵を産ませ、それを千代に食べさせるおつもりであったのでございます。


 わたくしが千代の家にたどり着いたときには、既にわたくしの卵は無惨にも割られ、千代の胎に入っておりました。


 そして、今にも死んでしまいそうであった、布団から起き上がることもままならなかったあの千代は、すっかり顔色もよくなり、その半身を起こし、涙を流しながら清之助さまの翼に抱きしめられていたのでございます。


 わたくしの憤怒はいかほどであったか。

孵るのを今か、今かと待ちわびた我が子は奪われ、そして清之助さままでもが千代に奪われてしまった。


 この女の息の根を止めてやる。


 わたくしがそう誓ったとき、お千代の身体に変化が起きました。


 両の腕がぶるぶると震えだし、千代が痛みに悲鳴を上げました。

腕が盛り上がったかと思うと、そこからみるみるうちに羽が生えたのでございます。


 わずかの内に、千代はわたくしたちと同じ、翼を持つ姿となったのでした。


 自分たちがもう人間の街では暮らしていけない。

かといって、鳥御門の家には迎え入れられることはない。

二人はその定めを悟ったのでしょう。

外に出るとそのまま、夕日の沈みゆく西の空へと飛んで行ってしまいました。


 まだ飛ぶこともままならぬ二人が、それでも拙い羽ばたきでお互いを支えあっている姿。

それはまるで、幼少の頃よりわたくしが夢見て止まなかった、比翼の鳥のようでございました。

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鳥御門家の卵 櫻庭ぬる @sakuraba_null_shi

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