危うい均衡で保たれる“家”と“友情”の物語
- ★★★ Excellent!!!
矛盾を抱えたふたりの葛藤に、胸をえぐられました。
食人鬼が現れるようになった世界で、その“家”は避難所としての役目を果たしていた。 “家”に人を招き入れるかの裁量は、主人公であるウィリアムズに任されていた。ある日、客人のひとりが食人鬼であると知ったが、ウィリアムズは“彼”を追い出そうとはしなかった――。
人とは見分けのつかない食人鬼が、外を出歩いているという荒廃した雰囲気を漂わせる世界の中で、新たな客人を淡々と招き入れるウィリアムズの様子には、どこか異質めいたものを感じました。食人鬼である“彼”を追い出さず、新たな客人を喰うことを宣言されても、ウィリアムズは動じません。それどころか“彼”と本について語らいます。一見そこには確かな“友情”が築かれているように思いますが、それは平穏を求めるふたりによって、危うい均衡の上に成り立っているだけに過ぎないのかもしれません。
恐怖から脱却したように見えるウィリアムズは、その裏で誰よりも食人鬼を恐れているように感じました。ウィリアムズが“彼”を恐れることは、食人鬼を恐れることと同じです。ウィリアムズが突如として変わってしまった世界で生きていくためには“彼”という存在を受け入れる必要があったのです。食人鬼である彼とは分かり合えることなど決してない、と諦めにも似た達観を抱きながら、自分だけは襲われないという状況が、ウィリアムズにとって心の平穏を保つためのセーフティーハウスだったのだと思いました。
一方で食人鬼である“彼”にとっても、ウィリアムズは生きていくのに必要な存在だったと考えます。ウィリアムズは自分の正体を知っても人間として扱ってくれる唯一の“友人”です。 “彼”は人間を食べる自分を忌み嫌い、ウィリアムズから食糧を供されるという状況に不満を覚えながらも、家から出て行こうとはしませんでした。
物語の終盤でウィリアムズを食べない理由を“彼”は「嫌いだから」と言い放ちますが、ウィリアムズを失えば“彼”に残されるのは“友人”さえも襲った“人喰い”という事実だけです。
“彼”にとってもこの状況が、人の心を保つためのセーフティーハウスなのだと思います。
互いに嫌い合いあいながら、その実でふたりが嫌うのは自分自身である、という一種の矛盾を抱えた葛藤に胸をえぐられるのは間違いありません……!
互いに傷つけ合い、衝突したふたりは、これからどうなっていくのか――?
今後を想像したくなるふたりの“友情”を、ぜひご堪能ください!