それぞれの想いが交差する和風ファンタジー

 聖域に残った龍の生き残りである七人の兄弟を中心とした和風ファンタジーです。

 結界で守られた聖域に住む彼らは、本性の龍姿ではなく人の姿をとって暮らしていた。それぞれが宮を持ち、従祀と呼ばれる人間に仕えられ、まるで神のように崇められる存在だった。

 物語はある日の晩、四男の透が外界から帰郷したことで動き出す。

 ひと騒ぎを起こして現れた透に、兄弟たちはそれぞれ複雑な思いを抱くが、七男の葵は兄との再会を手放しで喜んでいた。
 透は十年ぶりに見る末弟が幼いまま成長を止めていることに驚いていた。葵は龍に戻ることも出来なかった。いったい葵に何があったのか――?


 物語の雰囲気を感じさせるしっかりとした文体もさることながら、特筆したいのは登場人物たちでしょう。数が多いと感じる方もいるかも知れませんが、物語の進行が緩やかなので、ひとりひとりの性格や立場、背景をしっかりと理解することが出来ます。また心情描写が丁寧で、時に交差する兄弟たちの想いには胸を締め付けられるほどです。彼らに仕える従祀たちも、それぞれが事情を抱えており、これからの展開に期待が持てます。

 人間たちの思惑を無視できない聖域の状況にハラハラさせられ、葵くんの可愛いさに陥落する方が続出すること間違いなしだと思います!
 私は第二章でお泊りの支度をする彼にやられました……! 今では従祀の一人となって葵くんを見守りたい気分でいっぱいです!