穏やかで優しい描写で描かれる、喪失の物語

突如現れた少女エレットには、設定として明言されていないが、人を無条件に惹きつけてしまう力があるように思えた。
どこか庇護欲を刺激する、特別な存在感がある。

彼女の登場はセラフとララにとって「突然の贈り物」のようであった。

この物語は、その「突然の贈り物」が、同じく突然奪われてしまう喪失の話である。

エレットが消えても、本来は元の生活に戻るだけのはずなのに、読後に残る感情は決して“ゼロ”ではない。
むしろ、同じ数を足して引いたはずの結果が、大きなマイナスとなり、心に沈んでいくような不条理がある。

セラフとララの心には、これから先も簡単には拭えない喪失が影を落とし続けるのだろう。
エレットが存在した時間の短さとは対照的に、残された空白はあまりに深く、大きい。

また、エレットが「2050年生まれ」で、出会ったときに10歳前後という設定も絶妙でる。
現在30歳前後のセラフとララが長く健康に生きても、エレットと会うことは少し難しい。
届かない未来だからこそ、喪失がより強く心に残るのかもしれない。

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